2016年2月23日火曜日

教育動向: 2016年大統領選候補者の教育政策-バニー・サンダース(民主党)

アメリカの教育動向(久原みな子)

 今年11月8日に予定されている大統領選挙を前に、民主党・共和党各党内での候補者の教育歴と教育政策を紹介するシリーズ第2回。今回は、選挙運動に勢いがつき、ヒラリー・クリントン候補に並ぶ人気となってきたバーニー・サンダース(Bernie Sanders)を紹介する。
 
Bernie Sanders

 バーニー・サンダースは、1941年ポーランド系ユダヤ人の子どもとしてニューヨーク、ブルックリンに生まれた。地元の高校では陸上選手として活躍、その後バーナード・カレッジを経てシカゴ大学で政治学を学び1964年に卒業した。シカゴ大学学生時代は、公民権動と反戦運動の活動家であり、大学内での抗議活動を指揮し、またマーティン・ルーサー・キング・ジュニアが演説をしたワシントン大行進にも参加した。大学卒業後、イスラエルのキブツでのボランティアに参加、帰国後結婚し(のちに離婚)バーモントに移住、社会主義政党からバーモント州知事選、バーモント州上院議員選などに出馬するが落選し、大工や映画製作をするなどして暮らしていた。1980年代は同州バーリントン市長を2期つとめた。自ら民主社会主義者と名乗り、無所属で1988年から下院議員、上院議員として活躍しているが、現在は民主党会派を組み、大統領選には民主党から出馬している。
 
 サンダースの選挙活動は「信じられる未来 (A Future to Believe in)」をモットーに、格差是正を大きな政策に掲げている。教育政策では、オバマ政権とも部分的に重複する、高等教育の無償化が最大の政策である。その他、就学前教育の充実、教育機会の均等、教員の待遇改善(給与改善、テニュアの拡大、組合運動への支援など)を掲げている。
 
 プライベートでは最初の結婚後に生まれたサンダースの息子と、再婚相手であり元バーリントン・カレッジの学長であるジェーン・オメアラ・サンダースの連れ子3人の4人の子どもがいる。兄は英国緑の党のスポークスマンである。
 
 
  • Bernie Sanders 選挙キャンペーンHP:  https://berniesanders.com/about/
  • Jason Horowitz. “Bernie Sanders’s ‘100% Brooklyn’ Roots Are as Unshakable as His Accent.” New York Times, 2015/07/24.
  • Tim Murphy. “Here's What Bernie Sanders Actually Did in the Civil Rights Movement.” Mather Jones, 2016/02/11.
  • Will Ripley. “How did a socialist kibbutz influence Bernie Sanders?” CNN, 2016/02/10.
  • Alyson Klein. “Bernie Sanders and Education: Five Facts to Know Before the Iowa Caucuses.” Education Week, 2016/01/27.
  • AFT(American Federation of Teachers). “Candidate questionnaire: Bernie Sanders.”

2016年2月9日火曜日

教育動向: 2016年大統領選候補者の教育政策-ドナルド・トランプ(共和党)

アメリカの教育動向(久原みな子)

 今年11月8日に予定されている大統領選挙に向け、年明けから民主党・共和党各党内での候補者を選出する予備選挙が始まっている。これから何回かに分けて各党候補者の教育政策と経歴を中心にお伝えする。今回は、問題発言で注目を集めながら共和党内で支持率トップを走り続けてきた億万長者、ドナルド・トランプ(Donald John Trump)である。

THE SPIRIT OF DONALD TRUMP /L'INSPIRATION DE DONALD TRUMP

1946年ニューヨーク生まれのトランプは、ニューヨークの名門寄宿学校で学んだ後、フォーダム大学とペンシルバニア大学で学び、さらにペンシルバニア大学のビジネススクールでMBAを取得。ニューヨーク市での不動産開発を手がけていた父の事業を継ぎ、トランプ・プラザやトランプ・タワーなど、自らの名前をつけた不動産を開発して巨額の富を築き、その資産は90億ドルにも及ぶとされる。またテレビ出演や書籍の執筆も行っている。選挙活動のスローガンは「Make America Great Again! (再び偉大なアメリカを!)」である。

 トランプの教育政策は、共和党の方針とほぼ変わりない。連邦教育省の権限は縮小すべきだとし、連邦政府主導のコモン・コアには反対で、ジェブ・ブッシュなどコモン・コア賛成派の他の共和党候補を度々批判している。また、競争原理を信奉しており、学校選択やバウチャー制度、チャータースクールなどには賛成である。また、トランプ自身が、営利目的の「トランプ大学」(実際には大学として未認可で教育の質にも問題があり訴訟が起こっている)を経営しており、営利目的の学校に対しては規制を緩めるのではないかと考えられる。私生活では、3度結婚し、5人の子どもがいる。


2016年1月26日火曜日

教育動向: オバマ大統領の一般教書演説

アメリカの教育動向(久原みな子)

オバマ大統領は1月12日、任期中最後となる一般教書演説を行った。教育に関しては新たな政策提言ではなく、これまで取り組んできた課題に関する業績を確認し、それらのさらなる促進を約束するものとなった。
 
 これまでのNCLB法(No Child Left Behind Act落ちこぼれを作らないための初等中等教育法/どの子も置き去りにしない法)を中心とした教育政策により、昨年度の高校進学率が上昇し8割を超えたことを確認した。さらに昨年12月に可決した新教育法、ESSA(Every Student Succeeds Act/すべての生徒が成功する法)のもとでも、これまでどおり就学前教育の拡大と、STEM(科学・技術・工学・数学)教育、特にコンピューター・サイエンス分野に注力していくことを約束した。

 加えて、学生ローンの返済額を返済者の収入の1割以下にするという政策の実現をあげ、引き続き大学学費の引き下げ、特に二年制のコミュニティ・カレッジの無償化を目指していくと述べた。

 また、2012年に起きた小学校での銃乱射事件など、銃による暴力の被害者たちのために、今回の演説ではミシェル・オバマ大統領夫人隣のゲスト席に空席が設けられ、子どもたちを銃から守るためにも銃規制が必要であると訴えた。

  • Office of the Press Secretary, White House. “Remarks of President Barack Obama – State of the Union Address As Delivered.” 2016/01/13.
  • Alyson Klein. “Obama: I Will Keep Fighting for Preschool and College Access.” Education Week. 2016/1/12.

2016年1月12日火曜日

教育動向: 2016年教育動向予想

アメリカの教育動向(久原みな子)

公共ラジオ局NPRで長年教育ニュースを追ってきた記者クラウディオ・サンチェスが、昨年に続き今年も「2016年に注目すべき教育動向予想」を6つをまとめた。ちなみに昨年には、学力テスト、コモン・コアの見直し、オバマの教育政策の停滞、大学キャンパスでの学生の飲酒・ドラッグ・性的暴行問題への注目、教師の評価の問題、ファーガソンでの銃撃事件を受けた黒人生徒と学校警察の問題などを予測していた。では今年の予想を見てみよう。

1. 新しく成立した、すべての生徒が成功する法(ESSA)

落ちこぼれを作らないための初等中等教育法(NCLB法)に代わって昨年末成立した新教育法により、教育に関する権限を連邦政府から各州へと戻すことになっている(前回のブログ記事参照)が、実際にどのように教育行政を州が行っていくかはまだ決定していない。生徒が受けるテストの数は減ってもテスト結果が学校評価に使われることには変わりないだろう。

2. 全米共通学力基準コモン・コアから州独自の基準へ

コモン・コアに代わる州独自の基準を設定する州が増えるはずだが、多くは、名前を変更する程度で内容的にはそれほど変わらないものになると考えられる。

3.  チャータースクールの行方

今年でチャータースクール開始から25年になり、およそ6700校に300万人が学ぶまでになった。連邦政府も莫大な財政援助をしており、多くのアメリカ人も支持しているが、いまだ不正や汚職もあとをたたない。チャータースクールは、大統領選でも議論の的となる数少ない教育問題のひとつとなるだろう。

4. 不法移民の子どもたちの教育

米国に不法に移民した子どもたちの高等教育進学をめぐる問題は、移民問題の解決の遅れにより行き詰まっている。大統領選における不法移民をめぐる議論もこの問題を左右することになると考えられる。

5. 大学入試におけるアファーマティヴ・アクションの終焉

合衆国最高裁が大学入試選考で人種を考慮することを禁止し、アファーマティヴ・アクションが終わりになると考えられる。これに対して、少数派の学生による反対運動が予想される。大学側は、キャンパス内の多様性維持のためにどのような方法で様々な学生を集めていくか再考することが求められるだろう。

6. 大学学費・学生ローンの見直し

多くの大統領選候補者たちが、高等教育を無償あるいは借金の必要のないものにすることを求めており、高等教育機関は、授業料の設定に関して根本的な議論を進めていく必要があるだろう。

  • Claudio Sanchez. “Six Education Stories to Watch in 2015.” NPR News, 2015/1/3.
  • Claudio Sanchez. “6 Education Stories To Watch In 2016.” NPR News, 2016/1/1.

2015年12月29日火曜日

教育動向: No Child Left Behind Actに代わる教育法案が成立

アメリカの教育動向(久原みな子)

 連邦議会両院は12月10日、ブッシュ政権下の2002年に成立した、No Child Left Behind Act(落ちこぼれを作らないための初等中等教育法/どの子も置き去りにしない法/NCLB法)に代わる、Every Student Succeeds Act(すべての生徒が成功する法/ESSA)を賛成多数で可決し、オバマ大統領が新法に署名した。

 NCLB法は、1965年、ジョンソン大統領時に制定された初等中等教育法(ESEA)の改正法であるが、この初等中等教育法は、全ての子どもが教育を受けられるよう州に財政補助を行うこを決めた公民権法のひとつで、数年ごとに議会での見直しがされることになっている。NCLB法成立の2002年以降、全米共通学力基準であるコモン・コア(CCSS)やその到達度を測る統一テストが導入され、統一テストの結果が学校と教員の評価、連邦政府からの財政支援に結びつけられるようになるにつれ、NCLB法の画一的な方法の限界が露呈し、多くの反対運動を引き起こすまでになっていた。

 今回の改訂で、オバマ大統領は、「高い基準、アカウンタビリティ、学力格差縮小」というNCLB法の核となる目標は間違っていなかったことを確認したが、ESSAにより、統一テストの実施方法やカリキュラムなどにより柔軟性を持たせ、州と学区、教師たちに決定権を再び戻すことになった。

  • Gregory Korte. “The Every Student Succeeds Act vs. No Child Left Behind: What's changed?” USA Today, 2015/12/10. US Department of Education. “Every Student Succeeds Act (ESSA).”


2015年12月1日火曜日

教育動向: 米国で学ぶ留学生が10%増加、100万人近くに

アメリカの教育動向(久原みな子)

 米国教育省傘下の米国国際教育研究所(Institute of International Education)は、国際教育週間さなかの11月16日、国際教育に関する年次報告書 "Open Doors 2015" を発表した。それによれば、2014-2015年度、米国の高等教育機関で学ぶ留学生の数は前年度より10%増加し、過去35年間で最も多い974,926人であった。特に、インド、ブラジルからの留学生が増えていた。留学生の出身国別内訳は、中国が最も多く留学生全体の31%、続いてインドの14%となっており、韓国、サウジアラビア、カナダが続いている。日本からの留学生は、8位であった。専攻別では、ビジネス・経営学と工学が多数を占めている。

 留学生の多い上位大学は、ニューヨーク大学(13,178人)、南カリフォルニア大学(12,334人)、コロンビア大学(11,510人)となっており、アイビーリーグのみならず、全国の州立大学にも多くの学生が留学していることが明らかになった。学部生のおよそ80%、大学院生の約55%が、家族や個人の貯金に留学資金を頼っており、留学生全体で米国経済におよそ31億円の経済的貢献をしているとされる。米国から海外に留学する学生数も2013-2014年度に2008年の不況以降はじめて増加し、およそ30万人を超えた。

2015年11月4日水曜日

教育動向: ニューヨーク市、大学進学適正試験(SAT)を来年から無償化

アメリカの教育動向(久原みな子)

 10月から11月にかけて、全米のカレッジ・大学は入学願書提出時期となっている。アメリカでの大学入学者の選考は、日本のような大学を試験会場とした入学試験の結果によってではなく、事前に受験した大学進学適正試験(SAT)などの大学進学適性試験の結果を含む、様々な書類やエッセイ、推薦状などをもとに総合的に判断される。

 来年度大学進学予定のオバマ大統領の長女マリアが、アイヴィー・リーグや全米トップの州立大学の見学を終え、どこに進学することになるのかが注目されている一方で、多くの州や自治体では、この時期、カレッジ・アプリケーション・ウィーク(College Application Week大学願書提出週間)として、高校生の入学願書提出と高等教育進学をサポートしている。特に、家族内ではじめて大学に進学しようとしている「第一世代」の生徒に、無料の進学カウセリングや、出願料免除措置、入試プロセスのサポートを提供することが主眼となっている。

 こうした中、ニューヨーク市では、大学入試に必要なSAT試験を、来年度から市内の高校2年生に無料で、通常試験が行われる土曜日ではなく、平日に提供すると発表した。SATやACTを無償化し学校内で行う同様の措置は、大学進学を奨励・支援するとともに、必修の学力試験と置き換えることで高校生の受ける試験の総数を減らす目的で、すでにノース・カロライナ州、ケンタッキー州、ウィスコンシン州、コネチカット州などで導入されてきた。ニューヨークでは、SAT受験者は2015年卒業予定の生徒の約半分であり、54ドル50セント(約6千円)の試験料を市が肩代わりすることで、受験者を増やし、大学進学の手助けをするのが狙いである。これによりニューヨーク市は年間約180万ドルを負担することになる。