2016年7月20日水曜日

教育動向: 共和党全国大会で綱領を採択-教育政策は?

アメリカの教育動向(久原みな子)
 
共和党は、オハイオ州クリーヴランドで18日より4日間の予定で共和党全国大を開始、ドナルド・トランプの大統領候補指名に対する反発により混乱するなか、大統領選へ向けて党の綱領を採決した。

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 Andrew Ujifusaによれば、2012年の党綱領と大筋には同じ方向であるが、5月にオバマ政権が出したトランス・ジェンダーの生徒の権利を守る指針への反対、聖書を文学カリキュラムの選択肢として入れることなど、新しい内容も盛り込まれた。その他、オバマ政権が推し進めてきたコモン・コア政策や、大学学費のための学生ローン支払い援助などは、連邦政府の教育への過度の介入だとして批判した。さらに、中絶や避妊具使用を支援する学校クリニックに反対し、結婚まで一切の性的活動を認めない「禁欲」教育の必要性を主張するなど、党が守ろうとする伝統的価値を改めて確認した。また、バウチャー制度、チャーター・スクール、マグネット・スクール、オンライン学習、教区学校、ホーム・スクールなどにより学校選択の幅を広げることを支持した。 

2016年7月6日水曜日

教育動向: 最高裁が大学入試におけるアファーマティヴ・アクションを支持

アメリカの教育動向(久原みな子)
 
 6月23日、合衆国最高裁判所は、2008年のテキサス大学の入試において同校の人種に基づくアファーマティヴ・アクションによって、自らが白人であるために不合格になったとするアビゲイル・フィッシャーの訴えを退け、同大学の入試制度は違憲にあたらないとした。公民権運動をうけて黒人優遇策として始まった大学入試におけるアファーマティヴ・アクションは、近年その見直しが求められているものの、最高裁は40年余にわたり人種を考慮した入試制度を支持し続けていることになる。
 
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 テキサス大学では、州の各高校で優秀な成績をおさめた一定の割合の生徒に自動的に同校への入学許可を与える制度が取られている。テキサス大学の新入生のおよそ8割程度がこの制度で入学し、残りのおよそ2割は、人種を含む様々な要素を考慮に入れた総合評価により、大学の目指す多様性を達成すべく選考が行われる。この制度によって、テキサス大学は、黒人やヒスパニックなどの人種的マイノリティの学生を増やし、より多様な学生を集めてきた。同校のように人種を多数の選考要素のひとつにあげている大学は数多く、訴訟の行方が注目されていた。
 
 今回の判決では、テキサス大での人種にもとづくアファーマティヴ・アクションは支持されたが、同時に、アファーマティヴ・アクションが常に妥当性をもって行われなければならないこと、また多様性を達成するための他の方法を探る必要性があることも強調された。人種と大学入試に関しては、入試制度がアジア系の学生に不利になっていると指摘されるハーヴァード大学、アファーマティヴ・アクションが禁止されたミシガン州での取り組みなども注目されている。


教育動向: トランスジェンダーと学校のトイレ

アメリカの教育動向(久原みな子)
 
 5月13日オバマ政権は、司法省と教育省の連名で、公立学校ではトランスジェンダーの生徒が自らが認識する性別のトイレを使用できるしなければならないという指針を発表した。オバマ政権は、連邦の援助を受ける教育活動での男女差別を禁止する教育改正法第 9 編(Title IX of the Education Amendments)を、トランスジェンダーの生徒にも適用するという姿勢を示したことになる。背景には、3月以降混乱を極めていたノースカロライナ州でのトランスジェンダーのトイレ使用をめぐる訴訟、また各地でも起こっていた同様の議論がある。
 
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 今回の指針は、性的マイノリティの権利を擁護する賛成派の歓迎を受ける一方で、連邦政府の行き過ぎた介入であるとする反対意見、使うトイレの性別を個人が選べるとすることで性犯罪やプライバシーの侵害を懸念する声がさらに強まり、11州が連邦政府を相手取った指針無効を求める訴訟も起こしている。
 
 また、こうした混乱の中、かねてからトランスジェンダーの学生の権利保障に熱心であったイェール大学は、ジェンダーニュートラルな誰でも使える個室トイレをジャンパス内の23の建物に合計300以上設置し、携帯端末等で簡単に検索できるシステムも導入した。同校では、ジム施設にはユニセックスのロッカールームもある。また学生の登録に個人が選んだ名前と性別を使用することもでき、性転換手術などにも学生が加入する医療保険が適用される。他校でも、昨年には、名門女性大学であるスミス・カレッジとバーナード・カレッジが、出生時の性別にかかわらず自らを女性と認識するトランスジェンダーの女性の応募・入学を認めるなどの動きが見られる。