2016年6月7日火曜日

教育動向: 卒業式スピーチに見るトレンド

アメリカの教育動向(久原みな子)

 全米各地の大学では5月の卒業式(Commencement)シーズンを終え、夏休みに入った。大学の卒業式では、オバマ大統領をはじめ各界の著名人が招かれ、自らの経験と知識をふまえたメッセージを卒業生に向けて演説することが慣習となっている。Education WeekのEvie Bladによれば、今年度の卒業式スピーチでは、いわゆる広い意味での社会性と情動の学習(Social and Emotional Learning: SEL)、対人関係や感情におけるコンピテンシーの重要性を訴えたものが多かったという。これは、教育(研究)界のトレンドを反映しているものであるともいえるだろう。
President Obama at WTHS graduation

 例えば、ウィスコンシン大学の卒業式で演説したNFL選手のラッセル・ウィルソンのメッセージは、ペンシルヴァニア大学 の心理学者アンジェラ・ダックワース(Angela Lee Duckworth)が提唱してきた「グリット(Grit)」と重なるものだ。「グリット」は、忍耐力と情熱をもって長期的ゴールを達成するまで「やりぬく力」のことだが、ウィルソン選手が所属するチーム、シアトル・シーホークスは「グリット」をテーマにチームづくりに励んできた。

 また、ファイスブックCEOシェリル・サンドバーグ(Sheryl Sandberg)は、カリフォルニア大学バークレー校の卒業式で、夫の突然の死から学んだこと、すなわち失敗や困難は自分の能力そのものの反映ではなく、弱さを認識し必要な調整をしてそこから復活するための機会であるということを語った。これは、スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドウェック(Carol Dweck)が提唱してきた「成長するマインドセット(Growth mindset)」と重複する内容である。

 どちらもメディアに取り上げられ、心理学や教育学研究を超えて近年広く知られることになった研究である。

2016年5月25日水曜日

教育動向: 中学生数学コンテスト「マスカウンツ」開催

アメリカの教育動向(久原みな子)
 
 5月10日、各州選抜の中学生224名が竸う中学生数学コンテスト「マスカウンツ(MATHCOUNTS)」が開催され、ワシントン州出身の7年生(13歳)が優勝した。1984年に始まったマスカウンツは、クイズ番組のようなショー形式で行われ、毎年約10万人の中学生が地区予選に参加している。内容は数学的問題解決力を竸う競争で、例えば、優勝者のエドワード・ワンは、「999,999,999÷32のあまりは?」の問いにわずか6.95秒で正答「31」を答えた。優勝者には、大学進学のための奨学金2万ドルと、合衆国宇宙ロケットセンター(アラバマ州)での夏季プログラム「スペースキャンプ」への参加権が授与される。
 
MathCounts 004

 米国でも国際数学オリンピックの予選を兼ねた様々な数学コンテストが毎年各地で開催されており、数々の数学教師・ボランティアとともに学校の部活動、課外活動やオンラインフォーラムなどで、熱心な対策と指導が行われている。一方で、数学コンテストで上位を占めるのが高所得世帯出身の白人・アジア人に偏っていることも度々指摘されている。

2016年5月11日水曜日

教育動向: 2016年大統領選-教育省長官は誰になるか

アメリカの教育動向(久原みな子)
 
 共和党の大統領選挙候補者選出は、テッド・クルーズとオハイオ州知事ジョン・ケーシックの選挙戦撤退により、ドナルド・トランプの指名獲得が確実となった。一方、民主党も、ヒラリー・クリントンの指名獲得が濃厚となっている。このような中、教育界で影響力を持つと考えられる“インサイダー”を対象とした調査結果『エデュケイション・インサイダー(Education Insider)』を2009年より毎月発行しているホワイトボード・アドヴァイザーズ(Whiteboard Advisors)が、最新の調査結果の中で、次期教育省長官の予想を発表した。調査に回答した“インサイダー”は、現役ホワイトハウス職員、教育省職員や、州、連邦レベルの教育関係者、シンクタンク関係者などを含む、50-75名。
 
Linda Darling Hammond 3

 調査結果によれば、ヒラリー・クリントンが大統領になった場合の教育省長官候補としては、元スタンフォード大学教授で学校改革や教師教育に詳しいリンダ・ダーリング-ハモンド(Linda Darling-Hammond)や、アメリカ教員連盟(AFT)の現最高責任者であるランディ・ワインガーテン(Randi Weingarten)らの名前が挙がっている。ドナルド・トランプが大統領になった際の教育省長官候補としては、大統領選候補者でもあった元精神外科医のベン・カーソン(Ben Carson)や、OECDのPISA(国際学習到達度調査)ディレクターであるアンドレアス・シュライヒャー(Andreas Schleicher)らの名前が登場した。 

2016年4月13日水曜日

フィンランド・スウェーデン教育視察報告会を開催しました

3月31日(木)の昼休みに、N304教室においてフィンランド・スウェーデン教育視察の報告会を開催しました。

年度末の慌ただしい日でしたが、30人近くの方のご参加を得て、活発な質疑応答ができました。
また、Skypeで金沢大学と北海道教育大学とをつなぎ、フィンランドでご一緒した大学院生や先生方と研修の振り返りをしました。加えて、ストックホルムでお世話になった両角達平さんにも会場にお越しいただきました。お集まりいただいた皆様、どうもありがとうございました。

報告会に合わせて、報告書を作成しましたので、ぜひご一読ください。

報告書のダウンロートはこちらから(PDFファイル: 2.2MB)

2016年3月23日水曜日

研修報告: フィンランド・スウェーデン教育視察 まとめ

「グローバル人材育成のための北欧教育視察プログラム2016」

旅程 

3月5日(土) 
  • 09:00 羽田空港集合
  • 11:40 羽田空港発(NH211便)
  • 15:20 ロンドンヒースロー空港着
  • 18:00 市内観光へ
  • 11:15 ロンドン・ヒースロー空港発(BA794便)
  • 16:10 ヘルシンキ空港着
  • 18:00 ホテルへ
  • 09:00-14:30 Viiki Teacher Training School訪問
  • 18:00-19:30 リフレクション
  • 09:00-13:30 Saunalahden koulu訪問
  • 18:00-20:00 リフレクション
  • 終日 市内観光
3月10日(木)
  • 10:00-13:30 Kronohagens lågstadieskola訪問
  • 18:00-21:30 リフレクション
  • 午前中 市内観光
  • 17:00 ヘルシンキ港発(Viking Line)
  • 10:00 ストックホルム港着
  • 12:00-17:00 ストックホルム大学大学院生と面会
3月13日(日)
  • 10:00-15:00 スウェーデン人高校生と面会
3月14日(月)
  • 08:30-14:00 Vittra Luma Park訪問
  • 18:00-20:00 リフレクション
3月15日(火)
  • 09:00-11:00 Vittra Rösjötorp International訪問
  • 11:30-14:30 Vittra Groupストックホルム地区統括部長と面会

  • 17:10 ストックホルム空港発(SK2625便)
  • 19:10 デュッセルドルフ空港着
  • 20:05 デュッセルドルフ空港発(NH210便)
3月16日(水)
  • 15:30 成田空港着
  • 16:00 解散

報告会のお知らせ

3月31日(木) 12:10-13:00 N304教室にて


※本事業は、信州大学知の森基金を活用したグローバル人材育成のための短期学生海外派遣プログラムの助成を受けて実施されています。

教育動向: 2016年大統領選候補者の教育政策-ヒラリー・クリントン(民主党)

アメリカの教育動向(久原みな子)
 
 今年11月8日に予定されている大統領選挙を前に、民主党・共和党各党内での候補者の教育歴と教育政策を紹介するシリーズ第4 回。今回は、勢いづくバーニーズと党内指名を争うヒラリー・ローダム・クリントン(Hillary Rodham Clinton)を紹介する。
 
Hillary Clinton at Trident Tech

 1947年シカゴ生まれのヒラリー・クリントンは、名門女性大学ウェルズリー・カレッジを卒業後、イェール大学ロー・スクールに進学、1973年に法務博士となった。その後は、ロー・スクール在学中から交際中(1975年に結婚)であったビル・クリントンのいるアーカンソーの大学で教鞭を取るなどした後、ビルがアーカンソー州知事になってからも弁護士として活躍した。1993年からは大統領夫人として、また2001年からは上院議員として、社会福祉や子どもと女性に関わる分野などでは特に政策立案をリードしてきた。国務長官をつとめたオバマ政権下でも、就学前教育の拡大とより高い教育スタンダードを求めるESSA(Every Student Succeeds Act/すべての生徒が成功する法)を支持した。

 ヒラリー・クリントンの教育政策は、オバマ政権のそれと重なる部分が多く、公立学校を支援し、学力格差を縮小することを中心課題としている。就学前教育の拡大については、アーカンソー州知事夫人時代から30年以上にわたり取り組んでおり、またコモン・コアをはじめとする共通学力基準の導入もアーカンソー時代から支持している。オバマとの違いは、生徒の学力テストでの成績と教員評価は結びつけるべきではないとしている点である。選挙活動の大きな助けになると考えられている米国の2大教師組合、全米教育協会(NEA)とアメリカ教員連盟(AFT)は、組合内での意見の相違はあるものの、大統領選に向けて公式にクリントンを支持することをすでに表明している。また、クリントン政権成立時には、民主党系シンクタンク、アメリカ進歩センター(Center for American Progress)のメンバーなどが政策立案に加わるのではないかと予想されている。