2015年8月11日火曜日

フジテレビホウドウキョクに出演しました

 7月29日(水)21:00ごろから、ネットテレビのフジテレビホウドウキョクの「あしたのコンパス」という番組に電話インタビューで出演しました。7月27日に公表された文部科学省の調査で、苦情対応や報告書への対応を「負担」だと感じる教員が7割に上ったことを受けて、コメントを求められました。

 番組の様子は以下のアーカイブからご覧いただけます。

 http://www.houdoukyoku.jp/pc/archive_play/00042015072901/6/


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文字起こし



古市・石田: こんばんは。

古市: きょうのピックアップ二つ目はこの学校の先生が異様に忙しいんじゃないかっていうちょっと話題をやっているんですけれども。

石田: そうです。文科省で今初調査されて7割が負担と感じてるということなんですけれども。

古市: なんか遅い気もしますけどね。結構Twitterでもきていてやっぱりなんか大変そうだねみたいな意見が多いんですけど、ちょうど石田さんのご両親も小学校の先生ってことでそういうのも大変だって話がいろいろちょっと聞いてきたんですけど。

石田: はい。そうなんですよ。大変だというそうなんです。ではここで生のご意見ということで伺ってまいりたいと思いますが最初は信州大学教育学部助教でいらっしゃる林寬平さんにお話を伺います。
 
古市: 林さんこんばんは。よろしくお願い致します。

林: こんばんは。どうもよろしくお願いします。

古市: 先生の7割が負担を感じているというニュースなんですけれども、やっぱり先生は結構長時間労働なんですか。


林: そうですね。去年発表された国際調査では月あたり53.9時間働いているということで世界で一番長く働いているということが明らかになりました

古市: 世界で一番長いと。ほう。

林: 世界で一番長いというのは中学校での調査だったわけですけど、今回文部科学省がやった調査では小学校も中学校も、また校長先生や副校長先生なんかも入れて調査をしたということですね。

古市: なるほど。それによると労働時間がさっき1日12時間とか家に帰ってからも1時間40分仕事があるとかってことを報じられていましたけれども、そんなやっぱり仕事がたくさんあるものなんですね。

林: そうですね。先ほど番組の中でも仰っていましたが、一般的に「授業3割」というふうに教員の間ではいわれているんです。

古市: 「授業3割」なるほど。

林: 子どもと直接向き合って先生っていうふうにイメージされるような授業というのは本当に学校生活の一部でしかなくて、子どもたちが帰った後も職員室でいろんな書類作業をしたりとか会議をしたりとか、それから学校から出ていって研修を受けたり家庭との連絡調整をしたりとか、地域の方と相談をしたりといういろんな業務が入ってきます。

古市: 先生って昔からこんなに忙しかったんですか。

林: 昔も忙しいは忙しかったと思うんですけれども労働時間が長くなってきたっていう事実あるんですね。昭和41年の調査では月あたり約8時間の残業時間だったんですけれども最近の調査ではこちら週あたり13.9時間っていうことでかなり増えています。

古市: なるほど。かなり増えてますね。これは何で増えた時間なんですか。

林: これは先ほど番組でも言ってたとおり、先生たち昔は学校に授業しにきて授業が終わったら帰るというような形でした。


古市: なるほど。健全というかなんかそういうものかなと思ってたんで。でも今はそうではないんですね。

林: 今はそれ以外の仕事がいっぱい次から次へと入ってきている状態だと思いますね。


古市: なるほど。この残業した分とかその長時間外労働ってこれちゃんとお金はもらえているんですか。

林: それは一つ問題になっているところで、教員は教職調整額という制度がありまして、こちらは一律で4%給料に上乗せされて支給されているんですけど、これがあることによって一般の人が適用される労働基準法の時間外労働の割増賃金が適用されないことになっています。

古市: なるほど。てことはいくら働いてもこの4%って額以上はもらえないってことですか。

林: そうですね。どんなに働いても、学校に残って仕事を熱心にされていても、時間にきっかり帰る先生であっても全く同じ給料しかもらえないということですね。

古市: しかもそれなんですかそれ。部活とかのお金はあれどうなっているんですか。

林: 部活なんかもうほぼボランティアで手当っていっても数百円の手当が付くだけでもちろん最低賃金以下ですし、ちょっとお小遣いっていう程度の手当しか出ないということですね。

古市: 林さんなんかスウェーデンでも教職経験があるとお聞きしたんですけれども。スウェーデンではどんなことをされていたんですか。

林: スウェーデン人の通う学校で小学校と中学校で体育と算数と英語を教えていました。

古市: そうなんですね。スウェーデンと日本と比べてみてどうですかね。そういう学校の現場っていうのは。

林: スウェーデンを含めて世界20数カ国の学校見て回っているんでけれども、これほど熱心に働く先生たちが集まっている国っていうのは日本を置いてほかにないですね。


古市: なるほど。日本は一番熱心であると。

林: ええ。授業のためにきて授業が終わったら帰るというスタイルを今もほとんどの国がやっているということと、ほかの国ではあまり教師の専門性が高くないものですから、いってみたらそこら辺の人がたまたま教師をやっているという感じの場合も多いですね。教員不足が深刻ですので教員になりたいっていう人たちが熱意を持って教職になるという仕事ではなくてどちらかというと「教師にでもなるか」あるいは「教師にしかなれない」からっていうふうに教員になるのが普通という感じですね。なのでOECDが今回のように教員の調査をしたというのは各国で教員不足と人材不足っていうのがあって教職の魅力を高めていかないとそれぞれの国でこの先国が持たないということでどうしたら優秀な人材を教職にいざなえるかっていうことを主眼に置いて調査をしているということです。

古市: なるほど。ただ日本はその点でいうと優秀な人材が教職に集まっているという状況ではきっとあるんですよね。

林: そうですね。ただ社会のひずみとか本当は学校がやらなくていいのに学校しかできないからという理由でいろんな仕事が学校の中に投げ込まれて、結局先生たちがそれを人がいいのでやってしまうんですけれど、それを続けていくと本当に優秀な人たちが教職を目指さなくなって、特にこのような報道がされることによって教員難しい、大変だよね、ていうふうになってくると次第に優秀な人が入ってこなくなって、そうするとあまり優秀じゃない人の集団になるともっと仕事が大変になってどんどん負のスパイラルに入っていってしまうと。

古市: これどうしたらいいんですかね。まずやっぱりお金が足りないとか人材が足りないってことはひとつあるんですかね。


林: そうですね。お金があって教員の数を増やせたらそれが一番早いと思うんですね。今回53.9時間ということは40時間を標準とすると35%多く働いているっていうことになるわけですね。ていうことは本来普通に仕事をしていたら35%教員を増やすかあるいは教員の費用を35%増やして時間外労働にちゃんと報いるかっていうことを考えないといけないんですけれども。

古市: なるほど。そのちゃんとその超過時間分のそのお給料をちゃんとあげるかもしくはその分先生を増やすかということですね。

林: そうですね。そのような対応がなされないで例えば外部人材の活用とかボランティアとかで対応しようとしているっていうところがちょっと危ういかなって感じているところなんです。

古市: 今回はその文科省の報告書ではその提案として外部人材を使いましょうとかボランティアを使いましょうってことが提言されているわけですね。ただそれだとちょっと無理なんじゃないかなってことですよね。

林: そうですね。注意しないといけないのは長時間勤務。「勤務の時間が長い」ということと「多忙である」ということと「多忙化している」ということと「多忙感がある」ということと「負担感がある」ということはそれぞれ違うことなんですよね。

古市: なるほど。今回の調査では「負担感がある」って表現でしたっけ。


林: そうですね。国際調査のほうでは長時間勤務のことが指摘されたわけですけれども今回文科省はそれを受けて先生たちの負担感を調査したということでした。それで負担感を減らすためのガイドラインを出したとのことですけど、内容が結構あべこべになっていて、かみ合っていない面があります。例えば先ほどご紹介あったように国や教育委員会からの調査やアンケートへの対応が非常に負担感があるといっているんですけどこの調査をしているわけですね。

古市: そうですよね。だからまさに皮肉っていうかそうですよね。この調査のせいで忙しくなっているっていうのにこういう調査をしている。

林: ええ。今このようなことで文科省がやっていますけれども、実は都道府県も同じような調査をしていますし、各市町村の教育委員会も同じような調査をしているんですね。ということは3回同じような調査をやっているという。

古市: なんか1回で済まないですかね。


林: それがなかなか連携が取れていないんですね。そうしようとはしているんですけれど、うまくいってない現状はありますよね。それから例えば保護者地域からの要望苦情への対応に非常に負担感を感じているといいながらこのガイドラインで示されていることはチーム学校ということで地域の人とか専門家とかと連携してそれで対応していきましょうという案が出ているわけですが、それって結構コミュニケーションコストが増えてしまって本来保護者とかからの対応が負担があるといっているのにもっとその道に行ってしまっているような対応策になっていたりとかですね。それからマネジメントを強化するとか研修を強化するっていうことが対応策として書かれているんですけれどももともと負担感が強いと訴えているのはそういうところであって、負担感が強いので、じゃあもっと研修を強化しましょうみたいな報告書になっていまして、これは根本的に認識がおかしいんじゃないかと思うんですね。

古市: こういう報告書とか書く文科省の方ってあんまり教職員の現場とか知らないんですかね。


林: 多分すごく現場に長く居る方が多くて。それでよく分かってらっしゃる方が多いと思うんですけれども、計画的な対応という意味では現場レベルの目線ではちょっと難しいところがあると思うんですね。というのは日本の国内全部で長時間勤務っていうのが問題になっているわけですよね。ある学校だけで長時間勤務が問題になっているのであればその学校で対応すればいいと思うし、ほかに例えば長時間勤務がない教育委員会があったとしたらその教育委員会のいいところを勉強すればいいと思うんですけれども、これ全国で問題になっていることですので国の制度が問題だということですよね。なので誰かの改善とか頑張ろうという努力とかそういうもので改善しようというのはもっと頑張ろうといっているだけの話であって。


古市: そうか。本当は制度を抜本的に変えなきゃいけないにもかかわらずまたその現場の努力でなんとかしようとしているっていう今までのこの負のスパイラルの繰り返しのような調査と報告書になっちゃっているんですかね。

林: そうですね。それでこれまでもこの教職調整額を増やそうとかこの残業に対してきちんと報いようとか仕事の時間を減らせるように何とか系統的に変更しようという議論は常に行われてきたんですけれども、具体的な制度変更には至っていないんですね。

古市: なるほど。これってやっぱり財務省と文科省の折衝の話なのかもしれないですけどやっぱりあんまり教育にちょっとお金掛けられないってことなんですかね。

林: そうですね。また先生方個人の努力で何とかしてしまっているように見えているっていうのもまたちょっと弱いところではありますね。

古市: 確かに日本社会自体が学校に限らずにやっぱり何とか個人の努力で何とかしてしまう。短期的にはうまくいくんだけれども結果的にでもみんなが疲弊してしまうってことは結構どこにでも起こっていることですもんね。

林: そうですね。それで私の専門の国際比較からいいますと教員に長時間労働を課す国というのはどこの国も合法的かつ財政負担なく働かせる制度があるということで長時間労働を減らしたいというのであればこの長時間労働を違法化するということと財政負担を設けるということの二つを動かせば長時間労働はなくなると思うんですね。

古市: 確かにそれって別に本当は法律的な問題だけの話ですもんね本来は。

林: そうですね。ただ今と同じ仕事量で労働時間だけ減らされて規制されるようになったとするとより多忙化するわけですよね。なので時間が長いということと多忙であるということと負担感があるということはそれぞれ違った対処が必要になってくるっていうことですね。

古市: モデルになるいい国とか制度ってなんかありますかね。

林: モデルというと難しいですけどもある意味で日本はこの先生たちの非常に献身的な教育への取り組み質の高い教員ということをもって日本のすばらしい高学力、今OECDの加盟国では世界一なんですけれども。

古市: そうですよね。一時期なんかすごい順位下がったとかって話題になっていましたけど実は今また1位というかすごい成績いいんですよね。

林: そうですね。その好成績はそういう先生方の献身的な取り組みによって支えられている。だからほかの国は日本をモデルとして見ているわけですね。また部活動なんかがとても批判されてブラックだなんていわれることもありますけど、今特に非認知的スキルといわれる例えば豊かな性格とかテストで測れるものではなくて人生を送る上でその後だんだん生きてくるようなものについてもあらためて評価されるようになってきているわけですけど、それが部活動とかが非常に強みになっているんじゃないかというような指摘もありまして。一方で日本の国内から見るとそれが問題だっていわれますけれども海外から見るとそれが日本の強みだっていうふうにいわれているっていう面があるんですね。

古市: なるほど。じゃあいいところを残したまま先生の労働環境がもうちょっと改善されたらいいですよね。


林: そうですね。

古市: そのためには多分本当制度レベルちゃんと変えないといけないんでしょうけれどもどうですかなんかすぐに変わりそうですか。

林: いやあ、これはなかなか難しいと思いますね。教員としてもいろんな教員がおりますし例えば部活動がやりたくて教員になったっていう人も結構多いと思いますね。熱心に子どもと向き合う先生たちの多くは部活動をやりたくて教員になったっていう人が居ると思うんですけど、そういう人たちが居るから自分たちも長時間労働を強いられるんだっていうふうに傍で見ている教員も居ると思うんですね。だから一律に対応しようとすると必ず反発が出てきますし、誰しも学校という世界を経験しているのでいろんな意見がいろんなところから飛び交ってくると。

古市: 確かに。

林: だから「えいやっ‼」とやらないと動かないんですけども、なかなかできない環境は教育の中にはあると思いますね。

古市: なるほど。分かりました。どうも林さんお忙しい中ありがとうございました。


林: ありがとうございました。失礼致します。

古市: というわけで林寬平さんにお話を聞いてきたんですけれども、でも確かにそうですよね。一個の学校だけがこういう問題に苦しんでいるんだったらそこの学校に対してこういうふうにやってくださいって言えば済むけれども全部の学校が長時間労働だったりとかいろんな問題がある中でこうやってくれっていってやるのはでも無理で本当制度を変えなきゃいけないにもかかわらずそうはなってないっていうのはまさにそのとおりですよね。

教育動向: 大統領選とコモン・コア

 アメリカの教育事情 (久原みな子)

 2016年秋の大統領選挙に向け、すでに出馬を決めた各候補者がそれぞれの政策・理念を打ち出し選挙活動を開始している。教育政策においては、オバマ政権下で導入され始めた、全米共通学力基準コモン・コアとその到達度を測る統一テストの是非が争点のひとつだ。
 
 コモン・コアと統一テストの導入については、各地で教師・生徒・親たちによる反対運動が続いており、また州の足並みも不揃いで、民主党内、共和党内ともに意見が割れている。8月6日に行われた、共和党からの候補者上位10名による討論会では、コモン・コア以外の教育政策問題はほぼ取り上げられなかったが、長くコモン・コアを支持してきたジェブ・ブッシュと、断固とした反対派のマルコ・ルビオがその意見の違いを改めて明らかにした。ブッシュは、連邦政府が州の権限である教育問題に干渉することにあくまで反対であることを明らかにした上で、高い基準を維持することの必要性を強調。連邦教育省の廃止までも主張しているルビオは、カリキュラム改革の必要性を主張しながらも、コモン・コアが連邦政府の過干渉であるという意見を繰り返した。
 
 ジェブ・ブッシュとジョン・ケーシック以外の主要候補者は、共和党の方針と違わないコモン・コア反対派となっている。スコット・ウォーカー、クリス・クリスティーらは、当初コモン・コアを支持していたのにもかかわらず、後に大統領選を見据えてか反対派に転じ、一貫性のない言動で批判を浴びていた。
 
  • Lauren Camera. “Common Core Is Premier Education Issue in GOP Presidential Debate.” Education Week, 2015/8/6.
  • Allie Gross. “How the GOP Candidates Are Flailing on Common Core. ”Mother Jones, 2015/7/6.
  • Lyndsey Layton. “Chris Christie, a onetime booster, now wants to dump the Common Core.” Washington Post, 2015/5/28.
  • Valerie Strauss. “Tea partiers and liberals tell Gov. Scott Walker: ‘No more games on Common Core’.” Washington Post, 2015/7/7.

2015年7月28日火曜日

教育動向: 夏の学習喪失(Summer Learning Loss)

アメリカの教育動向 (久原みな子) 

米国公立学校の多くが約3ヶ月にわたる長い夏休みに入り、「夏の学習喪失」が懸念されている。学校暦の終わりとともに始まる夏休みの間には、宿題もなく、特に親たちが様々なサマー・キャンプ、サマー・プログラムを事前に手配したり、勉強やそれ以外の芸術・スポーツなどに関わる経験をさせる努力をしない限り、子どもたちが学校のない間に学習内容を忘れてしまう「夏の学習喪失」が起こる。これについては、1906年の ウィリアム・ホワイトによる研究に始まる長い調査研究の歴史があるが、総じて、子どもたちが夏の終わりには夏休み前よりも同じテストで低い成績になること、また夏の間に何も勉強に関わらなかった場合、算数ではおよそ2ヶ月分の学習を喪失することが指摘されている。この「喪失」は、経済的な理由でサマー・キャンプなどを手配できない低所得世帯の子どもたちにとってはより大きく、逆に夏ごとに新しい経験や学習を積んでゆく富裕層の子どもたちとの間の格差は広がっていくことになる。また、この「学習の喪失」が巨額の経済的損失に換算されるという報告もある。

 米国の生徒たちが国際的な学力テストで振るわない成績であることもあり、オバマ大統領およびダンカン教育長官は、学期の長さを長くし、夏休みを短くしようとする動きを支持している。また、夏休みの始まる6月中には「夏の学習の日(Summer Learning Day)」を打ち上げるなど、学習喪失に歯止めをかけることの重要さを広めようとしてはいるが、全米の8割を超える学校では、依然として長い夏休みが取られているのが現状だ。

 公立学校を拠点とするサマー・プログラムがある一方、地元のコミュニティ・センターや図書館、大学、団体、研究所、企業などが、夏の間子どもたちのための様々なプログラムを展開している。特に多くの公立図書館は、地元企業や団体との協賛で、夏休みの読書プログラムを用意している。これは、例えば、一定の冊数や時間を読書すると賞品がもらえるといったものや、特定のテーマの図書リスト(例えばヒーローもの)をもとにみなで同じ本を読んだりするプログラムもある。読書のみならず、映画や漫画、演劇、クラフトなどに関わるイベントを展開したりと学齢期の子どもたちが無料で楽しめる工夫をこらしている。

(写真:米国でも人気のKumon(公文式)教室の看板)

2015年7月14日火曜日

教育動向: 全米教育協会(NEA)が年次大会を開催

アメリカの教育動向 (久原みな子) 

 米国最大の専門職団体であり、会員数約320万人の全米最大の教員組合である全米教育協会(NEA)の年次大会が、6月26日より10日間にわたりフロリダ州オーランドで開催され、7,000人近くが参加した。 
 各州支部からの代表組合員により広範囲にわたる100を超える事項が議決された。そのうち、各地で紛糾と議論が続いている州共通学力基準、コモン・コアと、その到達度を測る統一テストに関しての決議事項が15以上あった。決議された内容をみると、コモン・コアに反対し、統一テストの受験を拒否するオプト・アウト運動を支持するNEAの立場が浮き彫りとなった。議決された事項は、例えば、テスト作成の2大コンソーシアムであるPARCC とSmarter Balancedによる統一テストが、教員評価と学校評価に利用される限り州単位での反対運動を展開すること、すでに始まっている各州でのオプト・アウト運動を支援すること、各州での義務的な評価を拒否する権利を組合員が行使できるように教育し支援することなどである。そのほか、特に最近再度高まりをみせていた教育における人種差別問題に具体的に取り組むことなどが決議された。

2015年6月30日火曜日

北欧研修参加者が学長懇談会に招かれました

 北欧教育視察に参加した上原瑛美さんが、学長懇談会に招かれました。

 懇談会は6月9日に教育学部の学部長室で行われ、山沢清人学長、平野吉直教育学部長、知の森基金貢献会員などが出席されました。上原さんはスウェーデンの学校訪問で感じたことなど、研修の成果を報告し、研修に参加するにあたって多くの方の支援を受けたことへの感謝を述べました。

 懇談会の様子は、「信州大学知の森基金」のページで紹介されています。


教育動向: 夏休み中の食事提供プログラムが各地で始動

アメリカの教育動向 (久原みな子)

 全米の学校が夏休みに入るにつれ、各地で子どもたちに夏休み中の食事を提供するプログラムが始動している。貧困層にある子どもたちにとって、学期中に学校で、無料であるいは割引で提供される朝食と昼食が一日の食事の全てである場合もあり、長い夏休みの始まりは、そうした子どもたちにとって飢餓と栄養失調を意味している。2014年度には、全米でおよそ2150万人以上の子どもたちが、そうした無料あるいは割引の給食プログラムを利用可能な低所得世帯の出身であった。
 米国農務省は、夏休み中、こうした子どもたちに食事を提供するプログラム(The Summer Food Service Program)を展開しているが、それを利用している子どもの数は、およそ270万人程度にとどまっており、あまり活用されていないのが現状だ。このプログラムでは、普通、食事が提供される場所に子どもが行き、その場で食事をする必要があるが、多くの低所得家庭では、夏の間子どもたちは家にとどまっており、交通費が捻出できないことも多い。また荒天により提供施設が閉鎖してしまう場合もある。
 農務省のプログラム以外でも、各地の学区、学校、地域の団体が様々なかたちで多くの貧困層の子どもたちに食事を提供するため奔走している。例えば、夏の暑さと交通の不便さが問題になりがちなアリゾナ州のある学区では、低所得層の子どもが夏の間一日を過ごすことの多い地元の図書館や地区センター、学校などで朝食・昼食・おやつ・夕食を涼しい屋内で提供し、それぞれの場所で無料の子供向けの活動・イベントも用意している。コロラド州では、学区のみならず、NPOハンガー・フリー・コロラドなどの団体をはじめ、地元のコミュニティや教会の指導者、ボランティアたちが協力し、連邦政府のプログラムを拡大するとともに、地元に根ざした地道な努力を続けている。5人に1人の子どもが「いつ、どこで、次の食事が食べられるのかわからない」状況にあると言われているコロラド州では、不況の影響が厳しかった2009年に州知事と地元団体が協力し、州内の子どもの飢餓を絶滅するためのキャンペーンが打ち上げられていたが、2014年には、夏の間に提供された食事の数は150万食と、2009年に比べて95%増となった。今夏は、さらに10万5千食を追加することを目標とし、州内533ヶ所で子どもたちに無料で食事を提供している。
 


2015年6月21日日曜日

研究紹介: PISAを照らす北欧のオーロラ2009

研究紹介:

澤野由紀子ほか(監修)『【抄訳】PISAを照らす北欧のオーロラ2009―読解力を中心に』
(国立教育政策研究所, 2015) 




* 「解説: 北欧諸国はPISAをどう分析しているのか」を金沢大学学術レポジトリからご覧いただけます。(2015/09/10追記)

 2000年から3年ごとにOECD(経済協力開発機構)が実施しているPISA(生徒の学習到達度調査)では、フィンランドの好成績はもとより、北欧諸国の特徴的な結果が世界中の注目を集めている。本資料は、北欧閣僚会議が2012年に公表したPISAの分析報告書を抄訳したもので、北欧諸国の客観的な状況のみならず、当事者たちが何に関心をもち、どのように自己分析しているのかを知ることができる。

 北欧諸国は歴史的な経緯から共通項が多い。しかしながら、成績の経年変化を見ると、各国が全く違ったパターンを現している。フィンランドは毎回ずば抜けてよい結果を出していたが、2009年には顕著に点数が低下した。スウェーデンは調査ごとに成績を落とし、10年間で計19ポイントの低下が見られた。一方、ノルウェーは2000年から2006年にかけて計21ポイント低下したが、2009年には19ポイントの劇的な回復を見せた。アイスランドは上昇と下降を繰り返し、4サイクルで計7ポイント低下した。デンマークは最も安定していて、毎回若干の上下が見られるだけだった。これらの違いは何に影響されているのだろうか。もちろん、一括りに北欧と言っても、制度の細部、教育を取り巻く環境、さらに教育の文化的側面においては、各国の違いも見られる。本報告書は、この「相違点と類似点」に着目し、「分析の軸を立て、互いの結果を比較検討する」という国境を超えた取り組みであり、国際学力調査の結果の分析・活用の具体例として示唆に富んでいる。

 原著(Niels Egelund (ed.), Northern Lights on PISA 2009 –focus on reading, Nordic Council of Ministers, 2012)は9章で構成され、ジェンダー、移民の背景、社会経済的背景、読書の楽しみ、学校関連要素などの視点から各国の生徒の読解力を分析している。また、デンマークが行った追加調査(PISAエスニック2009)の結果の分析や、この間に行われた教育改革や社会状況の変化が生徒の成績に与えた影響などを分析している。本資料では、このうち、要約箇所等を除いた7章分を翻訳した。

書誌情報 (CiNii)

  書名: 【抄訳】PISAを照らす北欧のオーロラ2009―読解力を中心に―
  出版日: 平成27(2015)年3月31日
  出版所: 国立教育政策研究所
  監修・監訳: 澤野由紀子(聖心女子大学文学部 教授)
                    中田麗子(ベネッセ教育総合研究所 アセスメント研究開発室 研究員)
                    林 寛平(信州大学教育学部 助教)
                    本所 恵(金沢大学人間社会研究域学校教育系 准教授)
                    渡邊あや(国立教育政策研究所高等教育研究部 総括研究官)

※本書に関するお問合せは北欧教育研究会(hokuofc@gmail.com)まで。