林寛平「学級経営の国際比較―スウェーデンと日本の授業スタイル」, 末松裕基・林寛平(編)『未来をつかむ学級経営:学級のリアル・ロマン・キボウ』(学文社, 2016)
本書『未来をつかむ学級経営:学級のリアル・ロマン・キボウ』は、学級経営の実践と理論について、現代の具体的な課題と取り組みを分析・紹介するとともに、原理的な内容も丁寧に論じて、広く読み継がれる図書を目指した。
第Ⅰ部では、現代の学級経営の課題と特徴、また、それに対応するための先進的な取り組みについて分析・紹介し、具体的には、小・中学校の事例、学級づくりの具体的かつ最新の取り組みや方法さらには、学級づくりの修羅場を志をもって第一線で活躍してきた教員がその実践哲学を論じ、課題意識、アイデアや、現職教員が読んで日々の課題解決に生かせる内容となっている。第Ⅱ部は、学級経営について、「哲学」「制度・歴史」「理論」の視点から原理的に考え、第Ⅲ部は、学級経営について、各国の特徴、課題、取り組みを論じ、それらを通じて、読者が世界的視野のもと日本との違いや独自性を理解してもらうことを意図した。(「はじめに」より抜粋)
<第9章のさわり>
北欧の教室ではグループ授業や個別学習が盛んに行われている。フィンランドはOECD生徒の学習到達度調査(PISA)で世界一の成績を修めたことから、世界中の教育関係者が「フィンランド詣で」をし、成功の秘訣を探ろうとした。この際、ドイツ人は単線型の総合制学校のメリットに着目し、スウェーデン人は教室の落ち着いた雰囲気と教師の権威に着目した。これに対して、日本の教員の多くは授業方法に着目した。ある教育学者は「机の並べ方は、教室によってまちまちだ」「教師の教えやすいよう、個々人に対応するために機敏に、適切に指導できるように机が配置されている。高学年になるほど、グループ学習が多く取り入れられているようだ」と記録している。この視点の違いは、欧州内外から見るフィンランド像の違いによるものだろう。欧州内ではフィンランドは他の欧州諸国と比べて生真面目な国民性と思われている。一方、欧州の外から見た場合は、フィンランドの教室に欧州的な特徴を見出そうとする。欧州の教員にとって、グループ活動は自分たちの日常でもあり、取り立てて異質のものとは映らなかったのかもしれない。では、北欧では、いつごろからグループ学習や個別学習が一般的になっているのだろうか。スウェーデンにおける授業形態の変化をみると、1960年ごろには6割を占めていた一斉授業が、1980年になると5割になり、グループ学習が増加している。さらに、2000年には一斉授業の割合は4割強に減少し、グループ学習から個別学習への移行が見られる。類似の傾向はほかの北欧諸国でも見られる。本章では、スウェーデンと日本を比較しながら、日本の学級経営論の特徴について論じたい。
書誌情報 (amazon.co.jp)
書名: 未来をつかむ学級経営:学級のリアル・ロマン・キボウ
出版日: 平成28(2016)年9月28日
出版社: 学文社
編者: 末松裕基・林寛平