2022年10月10日月曜日

研修報告: 海外学校臨床実習 2日目

10月8日(土)

約12時間のフライトを終え、経由地のヘルシンキにつきました!
予定よりも1時間半も早くの到着です。

とりあえず一安心というところでしょうか、出発のときに比べみなさんから緊張感がなくなっているように感じます。ただ、12時間座りっぱなしというのはやはり疲れますね。ストックホルムまであと少し! 頑張りましょう!



ヘルシンキから約1時間飛行機に乗り、無事ストックホルムに到着しました!
現地時間で朝の8時ごろです。


ホテルにチェックインし、荷物を預かってもらったら、これから今日明日となんと自由行動!せっかくのスウェーデン、楽しみ尽くします!

今回一緒にスウェーデンに行く仲間とこの日のために計画を練ってきました。長旅で疲れているからだなんて一切に気にせず、さっそうと街へ出かけていきます。

まず向かったのはストックホルム市立図書館!ここはドーム状の建物の壁一面に本棚があって、圧巻の光景でした。日本人の作品はないかなあと探してみると、村上春樹さんの作品やワンピース・ナルトなどの日本の漫画もたくさんありました。スウェーデンでも日本の本が読まれていることに驚きです。




そんなこんなでお昼になったので、お店を探していると、「ITAMAE」というお寿司屋さんを見つけました。スウェーデンではどんなお寿司が出てくるのか、気になりすぎて、せっかくスウェーデンに来ましたが、お昼は寿司にしました。



「nami」(並み?)を注文。写真にあるようなお寿司が登場しました。それぞれソースがかかっていて、醤油なしでもおいしく食べられました。本に、お寿司と、日本の文化を見つけることができてちょっとうれしくなった午前でした。

午後は、ストックホルム市庁舎へ向かいました。レンガ造りの建物は、本当にかっこよくて言葉を失います。昔から大切に使われているからこその雰囲気があり、現代の技術をもってしても、こんなにかっこいい建物は絶対に作れないと思いました。市庁舎といえる風格が確かにありました。



夜はここで、ノーベル賞受賞者が実際に食べたメニューを出してくれるレストランでディナーをいただきました。メニューは、2019年のノーベル賞受賞者が食べたものでした。飲み物、前菜、メイン、デザートと、満足感がすごかったです。(ちょっと学生には早すぎたかな…おいしさを言葉にできません…でも、ノーベル賞受賞者の気分も味わえました(笑))



ほかにも訪れた場所や新しく出会ったものが多く紹介しきれませんが、ストックホルムを納得いくまで満喫できた一日でした。多分ホテルに戻ったら疲れでくっすり寝られますね。なんと明日も1日自由行動なので、また今日とは違った角度で楽しみます!
(植松俊太郎・小田さくら)

※本事業は、ウプサラ大学教育学部との国際交流協定に基づき、信州大学教職大学院の授業「海外学校臨床実習」(隔年・2単位)として、信州大学知の森基金を活用したグローバル人材育成のための短期学生海外派遣プログラムの助成を受けて実施されています。

研修報告: 海外学校臨床実習 1日目

10月7日(金)

羽田空港に集合しました!
みな無事にチェックインを終え、いよいよスウェーデンに飛び立ちます!

大学1年生から大学院2年、現職の先生、大学教授陣と、実に年齢層の広いメンバー構成となっております。これからストックホルムまで約15時間のフライトです。海外へは初のメンバーも多く、ドキドキです。まずは無事に到着できますように。


(植松俊太郎・小田さくら)

※本事業は、ウプサラ大学教育学部との国際交流協定に基づき、信州大学教職大学院の授業「海外学校臨床実習」(隔年・2単位)として、信州大学知の森基金を活用したグローバル人材育成のための短期学生海外派遣プログラムの助成を受けて実施されています。

2022年4月22日金曜日

スウェーデンでドローンを飛ばすには

スウェーデンでは、2021年1月から新しい法律ができ、EUのドローン規制との整合するようになりました。以下では、日本からドローン(DJI Air 2S)を持っていき、現地で飛行・撮影し、SNS等に掲載するまでの道のりを紹介します。なお、情報は記事執筆時点のものですので、最新の規制等は各自でご確認ください。



1. 日本からドローンを持っていく

2022年4月に、ドーハ経由のカタール航空便でストックホルムへ向かいました。事前にカタール航空のホームページを調べると、ドローン本体とリチウムイオン電池のそれぞれに持ち込み規制がありました。そのため、成田のチェックインカウンターでドローンを持っていきたいことを申告すると、地上係員が付き添って出発フロアの一番端にある手荷物検査場(成田空港第2ターミナル3階の地図の左下、7のあたり)に案内されました。

手荷物検査場では、ドローン本体はスキャンのみで通り、バッテリーについては一度カバンから出して、容量を確認していました。カタール航空では100wHより大きいリチウムイオン電池は持ち込めないことになっていますが、DJI Air 2Sは40.42wH(写真の黄色マーカー部分)のため、その表示が確認できれば預けられます。機内に持ち込むと乗り継ぎでも面倒になるので、預け荷物に入れました(カタール航空のウェブサイトには「本体は機内持ち込み」と書いてありましたが、預けられました)。
追記(2022/04/24): 復路便では機内持ち込みのみ可(預け荷物は不可)ということで、預け荷物から取り出されました。


2. オペレーター登録

ドローンの機体登録や免許はTransportstyrelsen(交通局)が管理しています。そこで、まずは交通局のホームページから「ドローンページ」にログインします。(BankID等がないと入れません)

次に、オペレーター(operatör)として登録します。18歳以上が登録でき、登録料は50SEKです。
オペレーター登録が済むと、メールあてに即座に通知書が届きます。また、「ドローンページ」にもオペレーターIDが表示されます。

3. オペレーターIDを本体に貼る

オペレーターIDは自分で適当な紙に印刷して、ドローン本体にテープ等で貼りつけます(センサー類に支障がないように、脇腹などに)。

なお、2022年12月までは経過措置として上記方法で対応できますが、2023年以降はCEマークとCマークの認証を受け、リモートID機能がついた機体のみ飛行できます。2022年までに登録された機体は引き続き飛行できます。

4. ドローンカード(免許)の取得

15歳以上の人はドローンパイロット(fjärrpilot)になれます。ドローンパイロットには以下の3種類があります。
  • オープン(Öppen): 高度120m、ドローン重量25kgまで。航空機や人、動物や環境などに危害を与えるリスクが少ない場合
  • スペシフィック(Specifik): オープンに加え、リスクのある飛行をする場合
  • サーティファイド(Certiferad): 人を輸送したり、群衆の上空を飛行するなど、高いリスクがある場合
オープンにはサブカテゴリーがあり、A1/A3とA2という2つの種別があります。いずれもスウェーデンで取得すると、EU全域で飛ばせるようになります。免許種別は機体の重さや速さによって異なります。A1/A3については天気や物資の輸送などに関する一部の学習内容が省略されているため、飛行できる条件に制限があります。A2は少しだけ学習内容が追加されますが、A1/A3とA2をまとめて取得するほうがいいと思います。いずれも130SEKかかります。A1/A3は座学のみでオンライン試験を受け、40問のうち75%以上が正解なら即座にカードが発行されます。また、A2を追加で取得する場合、座学についてはオンライン試験で、30問のうち75%以上の正解が必要です。また、実技も求められますが、これはPDFのチェックリストをダウンロードして、操縦をしたことを自己申告します。オンライン試験(座学)に受かった直後に自己申告してもカードが発給されました。

ドローンカードの期限は発給から5年後の月末となっていて、A1/A3からA2にアップグレードした場合には、A1/A3についても、A2の試験の合格日を基準にこの期間が延長されます。


スペシフィックには能力証明書(kompetensintyg)、サーティファイドには操縦者証(fjärrpilotcertifikat)がそれぞれ別にあります。
自分がどのカテゴリー・サブカテゴリーか不明な場合には、ドローンガイドで調べることができます。

5. ドローンパイロット用のベストを買う

ドローンを飛ばすときには、ドローンカードを携帯し、ベストを着る必要があります。そのため、インターネットで買いました


6. ドローンを飛ばす

ドローンを飛ばす前に、少なくとも以下の4点を確認する必要があります。   

    ①Luftfartsverket(航空局; LFV)のドローンマップ
        空港や軍事施設周辺など、ドローン規制に関する情報を集めた地図
    NOTAM, AIP, AIP SUP 
        航空関係施設、業務、方式と危険等に係わる設定や状態、変更等についての情報
    自然保護マップ
        自然保護地区などを示した地図
    ④飛行予定地に「撮影禁止」と表示された場所がないかを確認(徒歩で見て回る)

①のドローンマップで制限がかかっている場合、制限の内容を読んで飛ばせるかどうかを確認します。空港の周囲5km圏は特別な許可がない限り飛ばせません。また、空港の周辺20km圏については、軽い機体であれば高度10mまでは特別な許可なしに飛ばすことができますが、そういった情報が載っています。

②NOTAMに記載事項がある場合には、飛ばせません。

③自然保護マップに乗っている地区の場合、上空を飛ばすのは難しいので、それ以外の場所から飛ばすようにします。

④飛行予定地内に、私有地などで「撮影禁止」と表示されている場合には、撮影することはできません。


7. 撮った映像をインターネットに載せる

ドローン映像は安易にインターネットに掲載することはできません。違法にアップロードした場合、罰金刑あるいは1年以下の懲役刑の対象となります。

次の条件を満たす場合には、特別な許可なくSNS等にアップロードできます。
    ①6. の飛行条件を満たしている
    ②私有地あるいは公共の場所で撮影の許可があり、それ以外のものが映り込んでいない
    ③地平線より上(つまり、空)が入っていない
    ④水辺が映り込んでいない
    ⑤森などで、上空から俯瞰したものでないもの(全体像が分からないもの)

上記以外の場合、
    ・陸上の風景にについてはLantmäteriet(国土測量庁)に頒布許可(spridningstillstånd)申請をします。
        こちらはウェブフォームで申請し、ビデオファイル等を送信します。
        BankID等がなくても、海外在住でも申請できます。
        早ければ5営業日程度でメールあてに許可通知が届きます。


    ・水辺が映っている場合には、Sjöfartsverket(海運局)に頒布許可を申請します。
        こちらはウェブフォームがないので、メールで申請します。

また、許可なく飛行・撮影あるいは頒布したことにより罰金を科された例として、2015年6月にウプサラ在住の操縦者がヘッレフォシュ(Hällefors)周辺の野鳥保護区で撮影し、33000クローナを科された事例や、頒布許可を取らずにYouTubeに掲載したとして64000クローナを科された事例、2023年にイベント上空で撮影し35000クローナを科された事例などがあります。自然保護区や国防上の理由で地理情報を保護する必要がある場所、イベント上空などを飛行し、その映像を公開する際には、大きなトラブルに発展する可能性がありますので、必要な許可を取るようにしましょう。

信州大学ドローンクラブ(SDC)は、信州大学教育学部の教職員・学生・院生を中心に活動し、教職大学院科目「教育課題教材開発演習」等を通じてドローンの教育活用に取り組んでいます。

2022年1月15日土曜日

教育新聞連載のご案内

「教育新聞」紙上にて、2018年7月より北欧の教育に関する連載を始めました。

===
◆連載「世界の教室から 北欧の教育最前線」北欧教育研究会

北欧の教育に関心を持つ者の交流の場として2004年に始まったのが、われわれ「北欧教育研究会」。研究者や学生だけでなく、主婦、ビジネスパーソンなど、多様なメンバーが集まってファンクラブのような雰囲気で勉強会を重ねてきた。今春、そのメンバーのうち3人が子供連れでスウェーデンのウプサラ大学に赴任したのを機に、この連載を始めることになった。信州大学准教授の林寛平、金沢大学准教授の本所恵、ウプサラ大学客員研究員の中田麗子を中心に、現地の教育、子育て支援など最新ニュースをお伝えする。
===

第1回 「キャッシュレス時代の算数」林寛平 (2018/07/13)
第2回 「スウェーデンの高校進学(上)」本所恵 (2018/07/27)
第3回 「スウェーデンの高校進学(下)」本所恵(2018/8/10)
第4回 「スーパーティーチャーの影」林寛平(2018/08/24)
第5回 「スウェーデン流お便り帳?」中田麗子(2018/09/07)
第6回 「何のための目標と成績か?」本所恵(2018/09/21)
第7回 「インターネットで学校が買える」林寛平(2018/10/05)
第8回 「増える学校の特別食」中田麗子(2018/10/19)
第9回 「敬称改革(Du-reformen) 先生に『やあ、モニカ!』」林寛平(2018/11/02)
第10回「スウェーデン版チーム学校」本所恵(2018/11/17)
第11回「最優秀学校給食を目指せ!」中田麗子(2018/11/30)
第12回「ひとりぼっちのクリスマス」林寛平(2018/12/16)
第13回「宿題ポリシー」林寛平(2018/12/30)
第14回「体育の授業増で学力向上?」本所恵(2019/01/20)
第15回「極夜の国の登下校」中田麗子(2019/01/27)
第16回「入試がない国の学校成績」本所恵(2019/02/10)
第17回「『オスロ朝食』からランチパックへ」中田麗子(2019/02/24)
第18回「みんなのアントレ教育」林寛平(2019/03/10)
第19回「『0年生』から始まる義務教育」本所恵(2019/03/24)
第20回「スウェーデンの英語教育」中田麗子(2019/04/07)
第21回「エデュ・ツーリズムと視察公害」中田麗子(2019/06/09)
第22回「高校中退のセーフティーネット」本所恵(2019/05/26)
第23回「思考力を育み評価する高校の試験」中田麗子(2019/06/09)
第24回「フィーカと授業研究」林寛平(2019/06/23)
第25回「スウェーデン人が見た日本の算数」林寛平(2019/07/07)
第26回「人を貸し出す図書館」佐藤裕紀(2019/07/21)
第27回「無理しない行事の工夫」矢田明恵(2019/08/03)
第39回「教室のおしゃれ家具の裏事情(前編)」林寛平(2020/02/07)
第47回「お誕生会は一大事!」中田麗子(2020/05/30)第62回「探究学習でウィキペディア執筆」本所恵(2021/01/04)
第63回「教育改革で多忙になったデンマークの教師たち」原田亜紀子(2021/01/16)
第64回「平和の担い手を育てる体系的な取り組み」田中潤子(2021/01/30)本紙人気連載「北欧の教育最前線」 書籍化され発売開始(2021/03/02)
第82回「スウェーデンの性教育とユースクリニック」太田美幸(2021/10/09)
第83回「学校向けに多数のサービス ノーベル賞博物館」本所恵(2021/10/23)
第84回「放火や対教師暴力 SNSで広がる学校の荒れ」林寛平(2021/11/06)
第128回「入学を勝ち取るために住所を変える デンマーク」佐藤裕紀(2023/07/22)
 
※記事は第1回のみ無料で閲覧できます。

2021年8月26日木曜日

日本教育学会奨励賞を受賞しました

2019年に日本教育学会の機関紙『教育学研究』に掲載された論文に対して、日本教育学会から奨励賞が授与されました。

日本教育学会奨励賞

授賞対象は以下の論文です。

林寛平「比較教育学における「政策移転」を再考するーPartnership Schools for Liberiaを事例にー」日本教育学会(編)『教育学研究』第86巻第2号, 2019, pp.213-224.

要旨は以下からご覧いただけます。
https://shinshuedu.blogspot.com/2019/10/blog-post_10.html

本文はJ-STAGEからダウンロードできます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyoiku/86/2/86_213/_article/-char/ja/



(以下、2021年8月26日追記)

例年、授賞式は学会大会の場で行われていますが、新型コロナウィルスにより大会がオンライン開催となりました。そのため、2021年の大会時に授賞セレモニーが行われました。

授賞理由 

本論文は「教育の輸出」事象が広がりを見せていることに着目し、これまで比較教育学が用いてきた「政策移転」や「政策借用」という概念で想定されていたこととは異なる事態が生じていることをリベリアの公立学校でのアウトソーシングの事例分析を通じて明らかにしている。具体的には、従来の政策移転論は、その政策が移転先において「土着化」「再文脈化」したり、淘汰・絶滅したりする段階へ至るものと把握されてきたのに対して、近年の「教育の輸出」では、輸出側の収益優位性を保持するために、「土着化」を阻害し続ける作用が働いており、比較教育学はそうした現象を捉えうる新たな枠組みの構築を必要としていることが考察されています。

教育の国際開発で起きている最新の事象を取り上げて、新しいデータを収集・分析することによって、比較教育学の研究方法論を再考しようとする挑戦的な研究という点で高い学術的意義が認められます。また、「政策移転」の分析枠組みを捉え直すことにとどまらず、近代公教育と国民国家形成を結び付けた教育理解のあり様を転換する必要性をも示しており、教育学研究に広くインパクトを及ぼす可能性を有するものです。

教育のグローバル化が進展する中で、教育の輸出と輸入は政治性と商業性を帯びてさらに広がっていくことが予想され、本論文は教育学研究に有益な示唆をもたらすとともに、将来的発展を大いに期待できるものと考えます。

よって本論文は奨励賞に値すると判断されました。
(奨励賞委員長・浜田博文先生)

※抜刷を無料でお送りします※

2021年3月25日木曜日

研究紹介: スウェーデンの離学予防・復学支援策

林寛平・本所恵「スウェーデンの離学予防・復学支援施策」, 園山大祐(編)『学校を離れる若者たち ヨーロッパの教育政策にみる早期離学と進路保障』(ナカニシヤ出版, 2021)


 スウェーデンの離学対策の特徴は、切れ目のない施策にある。基礎教育を受ける権利と義務、高校進学で挫折した人への補充教育、高校中退予防、そして、取りこぼした人をすくい上げる成人教育がある。これにより、希望すればほぼすべての人が高校卒業を目指せる制度が整えられている。また、病気や障害で学業を中断せざるをえなくなった人には現金給付があり、セーフティネットが広く張られている。加えて復学に向けたインセンティブが仕組まれていて、就労も就学もしていない若者に学業に復帰する動機を与えようとしている。本章では、スウェーデンにおける切れ目のない支援体制を描出するために、対象者の法的定義と統計を整理し、政策の重要な転換点を踏まえたうえで、離学・復学施策の特徴を検討する。(「はじめに」より)

書誌情報 (amazon.co.jp)
 書名: 学校を離れる若者たち ヨーロッパの教育政策にみる早期離学と進路保障
 出版日: 令和3(2021)年3月31日
 出版社: ナカニシヤ出版
 編者: 園山大祐

2021年3月24日水曜日

【在宅留学】ウプサラ大学とのオンライン共修

 信州大学教育学部ではウプサラ大学教育学部(スウェーデン)と共同でオンライン国際共修授業「Education in Global Perspectives (EGP)」を開講しました。コロナ禍で海外渡航が制限される中ですが、2020 (令和2)年度には日本とスウェーデンから30名弱の学部生・院生が受講しました。授業の主な内容は、①講義②グループワーク③ビデオ交換プロジェクトの支援の3点にまとめられます。



授業担当者による講義

 この授業では、双方向の関わりを通じて、教育学部生らしい専門的な内容を習得することを目指しています。講義では比較教育学を専門とする授業担当者が日本とスウェーデンの教室文化の細かな違いを取り上げ、その歴史や背景を解説しました。例えば、日本の学校でよく見かける飼育小屋やプールなどはスウェーデンの学校ではほとんど見かけません。職員室の雰囲気も全く異なっています。先生の呼び方や保護者とのかかわり方、教育実習の期間や実習生の立場なども大きく異なります。インフルエンザでの学級閉鎖や運動会の玉入れもスウェーデンではありませんし、保健室やカウンセラーの機能も様々です。給食のメニューや給食指導(残り物のじゃんけんなど)も考え方の違いが現れています。これらの日常的なトピックを取り上げて、両国の学校がどのような価値観をもって指導しているのかを考えました。



グループワーク

 EGPでは月に1度の頻度で講義を行いましたが、講義の合間には両大学の学生がグループを作って作業や議論を行いました。最初の課題は、「日本人がスウェーデンで教員になるには」「スウェーデン人が日本で教員になるには」でした。各グループでは、関連法規や採用試験の内容を調べ、国籍要件があるかを確かめました。そのほか、平均給与や労働時間の統計データや教職の志望動機のアンケート結果などを示しながら、両国の状況を比較しました。
 次に、それぞれの国で用いられている教科書や教材を持ち寄り、小学校の授業を撮影したビデオを観ながら指導方法や教員の働き方の違いや共通点について話し合いました。教育実習を経験した学生は実習先で書いた指導案を紹介し、両国の着眼点の違いを議論しました。スウェーデンの教科書では登場するキャラクターをもっぱら動物で表現し、中性的な名前を使うなど、ジェンダーに配慮した編集になっています。一方、日本の教科書では男女の児童が登場し、1人の先生と問答をしながら展開してく構成になっています。これに対してウプサラ大学の学生からは、スウェーデンでは複数の教員でチームを組んで教えることが多いため、一人の先生が首尾一貫して教えているのは違和感がある、という意見がありました。


ビデオ交換プロジェクトの支援

 グループワークのハイライトは児童によるビデオ交換プロジェクトのサポートです。附属長野小学校6年生では、英語活動の一環としてストックホルム郊外の基礎学校(Saltsjöbadens Samskola)の子供たちとビデオ交換を行いました。奇数月には日本からスウェーデンへ、偶数月にはスウェーデンから日本へビデオを送りあうというものです。両校では4人程度の班を作り、班ごとに英語のビデオを製作しました。小学校6年生にとって、英語で説明をしたり、相手の英語を聞き取ったりすることは容易ではありません。そのため、信州大学のEGP受講生は毎週月曜日と木曜日の朝にZoomで6年生の教室とつなぎ、遠隔でビデオ作りをサポートしました。また、スウェーデンでも同様に、Samskolanのビデオ作りをウプサラ大学の学生がサポートしました。
 3月10日には、ビデオ交換プロジェクトとEGPのまとめとして、児童と学生が参加するリアルタイム・ミーティングGlobal Friends Meet Upを開催しました。Meet Upでは、学生が児童と協力してZoomを運営し、各班でのゲームや交流活動を両国の学生がサポートをしました。附属長野小学校の6年生にとっては卒業式1週間前という時期でしたが、小学校最後の思い出として、緊張感と達成感に満ちた会になりました。また、EGPの受講生にとっても、これまでの国際共修で培った関係性を活かして、海外の学生と一緒に企画する貴重な経験となりました。


 この授業では、信州大学の学生には信州大学から、ウプサラ大学の学生にはウプサラ大学から単位が付与されます。信州大学教育学部とウプサラ大学教育学部は2019(令和元)年11月に国際交流協定を締結し、留学生の相互受け入れを始めています。併せて、信州大学・金沢大学・ウプサラ大学の3者でコンソーシアムを組み、国際交流の促進に取り組んでいます。


受講生のコメント(抜粋・一部改変)

  • 在宅で留学が出来るという点に惹かれたことがこのプロジェクトに参加しようと思ったきっかけでした。私には留学経験も教育実習の経験もなく、しかも英語に対して苦手意識を持っているため、授業について行けるか、きちんと子供たちをサポートしていけるのか不安がありました。特に、ウプサラ大学の学生との授業は、リアルタイムで英語が飛び交う状況に毎回とても緊張していました。しかし、子供たちとの関わりやウプサラ大学、信州大学の学生との交流を通して、他の方の楽しそうな表情やあたたかい雰囲気に何度も感動し、この輪の中に自分も思い切って飛び込んで良かったと思いました。そして、英語を使いこなす先生や他の学生の様子に刺激を受け、自身の英語の力をさらに高めたいと強く思いました。この授業は、将来的に英語を使おうと考えている方はもちろん、英語に苦手意識を持っていたり自分の意識を変えるきっかけを掴みたいと考えていたりする方も参加する価値がある授業だと考えます。英語が苦手な身として不安もたくさんありましたが、短くつたない英語でも相手に伝わったときや、子供たちとの活動で英語のサポートが出来たときの喜びはとても大きく、それが自分自身の力にもなりました。本当に楽しかったです。ありがとうございました。
  • 活動が多岐に渡り、さまざまな思考力が養われたと思います。特にこの授業の中心であるウプサラ大学の学生との交流では互いの教材や教育文化を語るだけでも文化的、社会的な背景からくる教育観について学べました
  • 子どもたちと実際に関わる授業がEGPだけでしたので貴重な経験になりました。班の子たちをどうサポートしたらいいのか不安でしたが、先輩と2人で1つの班を担当できたのが心強かったです。大学生同士の授業では、スウェーデンの授業実践についてだけでなく、先輩方の授業実践についても少しお話いただけて非常に勉強になりました。スウェーデンの教育にも興味を持てました。ありがとうございました!
  • 私の班は、最初のビデオ交換の段階では、すべての翻訳を大学生が行っていました。しかし、ビデオ交換の回数を重ねていくと、一緒に届いたビデオを見ていても子供たちが聞こえた文や単語を自力で理解しようとしていた姿に成長を感じました。そして、それによって次のビデオをさらに意欲的に考えるようになり、中身の濃いビデオが作られていったと思います。特に、こちらから投げかけた話題について返答してもらい、追加で新たな質問が来るとその答えを楽しそうに考えていたことがとても印象的でした。私も嬉しかったです。時間が経つにつれ、大学生との距離が縮まったことで意見を言いやすくなったのかもしれませんが、スウェーデンの子供たちとのやり取りを通して、長野小の子供たちの英語力の成長だけでなく気持ち的な面でも変化があり、それがより積極的な活動へ繋がったのではないかと考えます。子供たちのビデオ交換プロジェクトは良い活動だと思います。私も子供たちの成長を間近で感じることが出来ました。
  • Thank you for making this course possible. It has thought me a lot, and I have also gained many new perspectives.
  • 子ども達は、それぞれ伝えていこと、またスウェーデンの子どもからの質問への返答を中心に考えていました。メッセージを発信して、受け取って返答する、そのやりとりが時間と場所を超えて行われていたこの活動は、見ていて面白かったです。 現代はYouTubeなどで海外の様子などは簡単に触れることができますが、このプロジェクトのようにコミュニケーションの相手として海外の人に触れることは貴重な機会だと思います。ある程度近い存在としてスウェーデンの人たちのことを感じられたのではないでしょうか。そんな近い存在を通して感じる海外は、彼らにとってとても貴重な経験になったと思いますし、海外という存在が近くなったのではないかと思います。
  • 小学生同士の国際交流に関わったり、参観できたりしたことは、今後英語教育に携わる上でとてもよい経験となった。最初は英語も、ビデオづくりも小学生には難しいのではないかと思っていたが、想像以上に子どもたちには力があり、回を重ねるごとにビデオの質も上がっていった。Zoomということで子どもたちの意図を全てくみ取ることは難しかったが、それでも一員として関われてよかった。
  • 初めは正直日本の児童がどこまでビデオを作れるのか不安なところもありました。自分たちでつくり、スウェーデンの子どものビデオに圧倒され、それでも自分たちなりに工夫していこうと自己調整する姿が良かったと思います。国際交流の新たな方法としても勉強になりました。ビデオ交換に限らず、学校のカリキュラムマネジメントとして考えていく必要のあるところですが、教科・領域の指導の中で相手意識をもつための時間がもう少しあれば、ビデオの内容に更なる展開もあると、可能性を感じました。
  • Pupils were engaged in the activity. It also boosted their confidence in English communication.
  • 大学生同士の英語はスピードが速く使う言葉も難しかったので、楽しむというよりは緊張感を持って参加していました。信州大学の先生や先輩の方の英語を聞いて、こんなにも英語を使いこなせる人がたくさんいるのかと驚きました。私は、授業中はついて行こうとひたすら必死だったのですが、授業後に内容を振り返ると、失敗よりも他の学生の方のあたたかさや授業の楽しさをたくさん思い出して、参加して良かったと毎回思っていました。私の英語はまだまだ日常的に使えるものとはいえないので、その場その場での英語のやり取りには多くの課題が残っています。しかし、自分の考える授業案をプレゼンし合ったときに、ウプサラ大学の学生が私の授業内容を面白いと言ってくれて、自分の英語がきちんと伝わっていたことと教育の面でも先輩の方々に自分の考えを褒めていただけたことがとても嬉しく印象に残っています。スウェーデンと日本の学校の文化や制度などの違い、先輩の方の考えをたくさん知り吸収でき、教育を学ぶ者としても大学生同士の授業には刺激を受けました。
  • (Global Friends Meet Upについて)同じ班の大学院の先輩と当日に向けて話したとき、不安な点があるということだったので、子供たちが緊張しすぎず楽しめるか、私もきちんと支えられるか心配していました。はじめはぎこちない部分もありましたが、お互いに質問し合ったりちょっとしたミスも一緒に笑い合ったり出来たことで、子供たちの中に良い雰囲気が生まれたと感じました。長野小の子供たちは、ジェスチャーゲームや質問を通して、英語が伝わったことをとても喜んでいるように見えました。特に、Samskolanの子がスウェーデンの首都を聞いてきたときに、正解を答えた子がこれまでの活動の中で一番嬉しそうな顔をしていたことが印象的でした。それが私も嬉しかったし、喜んでいる長野小の男の子の様子を見てサムスコラの子供たちも楽しそうでした。翌日の振り返りでも挙がっていたことですが、コミュニケーションは、言葉がなくても生まれるのだと実感しました。言葉が足りなくても、うまく話せなくても、言葉以上に伝わるコミュニケーションがあり、そこから喜びや楽しさが生まれることを私も子供たちから学びました。そして、反省としてこれから子供たち自身の英語を向上させていきたいと話し合っていましたが、それを伸ばすにあたり、今回のプロジェクトの楽しかった思い出や嬉しかった気持ちを力にして欲しいと思いました。
  • (Global Friends Meet Upについて)子どもたちが時間が足りないと思うような会を開くことができ、これからの英語学習のモチベーションになるような経験になったと思う。様々な人が関わる会だったので、準備段階ではそこの共通理解が大変だったが、関わることができてよかった。私も楽しめた。
  • (Global Friends Meet Upについて)It was wonderful. I was surprised by pupils' passion to communicate. Despite the difference in English ability, all the students in my group were having fun. I am certain that it will be a great incentive for students to learn English.
  • (Global Friends Meet Upについて)小学生、大学生ともにリアルタイムのミーティングは10回のメールより価値があると思います。

【担当者・協力者】(敬称略)