2021年3月24日水曜日

【在宅留学】ウプサラ大学とのオンライン共修

 信州大学教育学部ではウプサラ大学教育学部(スウェーデン)と共同でオンライン国際共修授業「Education in Global Perspectives (EGP)」を開講しました。コロナ禍で海外渡航が制限される中ですが、2020 (令和2)年度には日本とスウェーデンから30名弱の学部生・院生が受講しました。授業の主な内容は、①講義②グループワーク③ビデオ交換プロジェクトの支援の3点にまとめられます。



授業担当者による講義

 この授業では、双方向の関わりを通じて、教育学部生らしい専門的な内容を習得することを目指しています。講義では比較教育学を専門とする授業担当者が日本とスウェーデンの教室文化の細かな違いを取り上げ、その歴史や背景を解説しました。例えば、日本の学校でよく見かける飼育小屋やプールなどはスウェーデンの学校ではほとんど見かけません。職員室の雰囲気も全く異なっています。先生の呼び方や保護者とのかかわり方、教育実習の期間や実習生の立場なども大きく異なります。インフルエンザでの学級閉鎖や運動会の玉入れもスウェーデンではありませんし、保健室やカウンセラーの機能も様々です。給食のメニューや給食指導(残り物のじゃんけんなど)も考え方の違いが現れています。これらの日常的なトピックを取り上げて、両国の学校がどのような価値観をもって指導しているのかを考えました。



グループワーク

 EGPでは月に1度の頻度で講義を行いましたが、講義の合間には両大学の学生がグループを作って作業や議論を行いました。最初の課題は、「日本人がスウェーデンで教員になるには」「スウェーデン人が日本で教員になるには」でした。各グループでは、関連法規や採用試験の内容を調べ、国籍要件があるかを確かめました。そのほか、平均給与や労働時間の統計データや教職の志望動機のアンケート結果などを示しながら、両国の状況を比較しました。
 次に、それぞれの国で用いられている教科書や教材を持ち寄り、小学校の授業を撮影したビデオを観ながら指導方法や教員の働き方の違いや共通点について話し合いました。教育実習を経験した学生は実習先で書いた指導案を紹介し、両国の着眼点の違いを議論しました。スウェーデンの教科書では登場するキャラクターをもっぱら動物で表現し、中性的な名前を使うなど、ジェンダーに配慮した編集になっています。一方、日本の教科書では男女の児童が登場し、1人の先生と問答をしながら展開してく構成になっています。これに対してウプサラ大学の学生からは、スウェーデンでは複数の教員でチームを組んで教えることが多いため、一人の先生が首尾一貫して教えているのは違和感がある、という意見がありました。


ビデオ交換プロジェクトの支援

 グループワークのハイライトは児童によるビデオ交換プロジェクトのサポートです。附属長野小学校6年生では、英語活動の一環としてストックホルム郊外の基礎学校(Saltsjöbadens Samskola)の子供たちとビデオ交換を行いました。奇数月には日本からスウェーデンへ、偶数月にはスウェーデンから日本へビデオを送りあうというものです。両校では4人程度の班を作り、班ごとに英語のビデオを製作しました。小学校6年生にとって、英語で説明をしたり、相手の英語を聞き取ったりすることは容易ではありません。そのため、信州大学のEGP受講生は毎週月曜日と木曜日の朝にZoomで6年生の教室とつなぎ、遠隔でビデオ作りをサポートしました。また、スウェーデンでも同様に、Samskolanのビデオ作りをウプサラ大学の学生がサポートしました。
 3月10日には、ビデオ交換プロジェクトとEGPのまとめとして、児童と学生が参加するリアルタイム・ミーティングGlobal Friends Meet Upを開催しました。Meet Upでは、学生が児童と協力してZoomを運営し、各班でのゲームや交流活動を両国の学生がサポートをしました。附属長野小学校の6年生にとっては卒業式1週間前という時期でしたが、小学校最後の思い出として、緊張感と達成感に満ちた会になりました。また、EGPの受講生にとっても、これまでの国際共修で培った関係性を活かして、海外の学生と一緒に企画する貴重な経験となりました。


 この授業では、信州大学の学生には信州大学から、ウプサラ大学の学生にはウプサラ大学から単位が付与されます。信州大学教育学部とウプサラ大学教育学部は2019(令和元)年11月に国際交流協定を締結し、留学生の相互受け入れを始めています。併せて、信州大学・金沢大学・ウプサラ大学の3者でコンソーシアムを組み、国際交流の促進に取り組んでいます。


受講生のコメント(抜粋・一部改変)

  • 在宅で留学が出来るという点に惹かれたことがこのプロジェクトに参加しようと思ったきっかけでした。私には留学経験も教育実習の経験もなく、しかも英語に対して苦手意識を持っているため、授業について行けるか、きちんと子供たちをサポートしていけるのか不安がありました。特に、ウプサラ大学の学生との授業は、リアルタイムで英語が飛び交う状況に毎回とても緊張していました。しかし、子供たちとの関わりやウプサラ大学、信州大学の学生との交流を通して、他の方の楽しそうな表情やあたたかい雰囲気に何度も感動し、この輪の中に自分も思い切って飛び込んで良かったと思いました。そして、英語を使いこなす先生や他の学生の様子に刺激を受け、自身の英語の力をさらに高めたいと強く思いました。この授業は、将来的に英語を使おうと考えている方はもちろん、英語に苦手意識を持っていたり自分の意識を変えるきっかけを掴みたいと考えていたりする方も参加する価値がある授業だと考えます。英語が苦手な身として不安もたくさんありましたが、短くつたない英語でも相手に伝わったときや、子供たちとの活動で英語のサポートが出来たときの喜びはとても大きく、それが自分自身の力にもなりました。本当に楽しかったです。ありがとうございました。
  • 活動が多岐に渡り、さまざまな思考力が養われたと思います。特にこの授業の中心であるウプサラ大学の学生との交流では互いの教材や教育文化を語るだけでも文化的、社会的な背景からくる教育観について学べました
  • 子どもたちと実際に関わる授業がEGPだけでしたので貴重な経験になりました。班の子たちをどうサポートしたらいいのか不安でしたが、先輩と2人で1つの班を担当できたのが心強かったです。大学生同士の授業では、スウェーデンの授業実践についてだけでなく、先輩方の授業実践についても少しお話いただけて非常に勉強になりました。スウェーデンの教育にも興味を持てました。ありがとうございました!
  • 私の班は、最初のビデオ交換の段階では、すべての翻訳を大学生が行っていました。しかし、ビデオ交換の回数を重ねていくと、一緒に届いたビデオを見ていても子供たちが聞こえた文や単語を自力で理解しようとしていた姿に成長を感じました。そして、それによって次のビデオをさらに意欲的に考えるようになり、中身の濃いビデオが作られていったと思います。特に、こちらから投げかけた話題について返答してもらい、追加で新たな質問が来るとその答えを楽しそうに考えていたことがとても印象的でした。私も嬉しかったです。時間が経つにつれ、大学生との距離が縮まったことで意見を言いやすくなったのかもしれませんが、スウェーデンの子供たちとのやり取りを通して、長野小の子供たちの英語力の成長だけでなく気持ち的な面でも変化があり、それがより積極的な活動へ繋がったのではないかと考えます。子供たちのビデオ交換プロジェクトは良い活動だと思います。私も子供たちの成長を間近で感じることが出来ました。
  • Thank you for making this course possible. It has thought me a lot, and I have also gained many new perspectives.
  • 子ども達は、それぞれ伝えていこと、またスウェーデンの子どもからの質問への返答を中心に考えていました。メッセージを発信して、受け取って返答する、そのやりとりが時間と場所を超えて行われていたこの活動は、見ていて面白かったです。 現代はYouTubeなどで海外の様子などは簡単に触れることができますが、このプロジェクトのようにコミュニケーションの相手として海外の人に触れることは貴重な機会だと思います。ある程度近い存在としてスウェーデンの人たちのことを感じられたのではないでしょうか。そんな近い存在を通して感じる海外は、彼らにとってとても貴重な経験になったと思いますし、海外という存在が近くなったのではないかと思います。
  • 小学生同士の国際交流に関わったり、参観できたりしたことは、今後英語教育に携わる上でとてもよい経験となった。最初は英語も、ビデオづくりも小学生には難しいのではないかと思っていたが、想像以上に子どもたちには力があり、回を重ねるごとにビデオの質も上がっていった。Zoomということで子どもたちの意図を全てくみ取ることは難しかったが、それでも一員として関われてよかった。
  • 初めは正直日本の児童がどこまでビデオを作れるのか不安なところもありました。自分たちでつくり、スウェーデンの子どものビデオに圧倒され、それでも自分たちなりに工夫していこうと自己調整する姿が良かったと思います。国際交流の新たな方法としても勉強になりました。ビデオ交換に限らず、学校のカリキュラムマネジメントとして考えていく必要のあるところですが、教科・領域の指導の中で相手意識をもつための時間がもう少しあれば、ビデオの内容に更なる展開もあると、可能性を感じました。
  • Pupils were engaged in the activity. It also boosted their confidence in English communication.
  • 大学生同士の英語はスピードが速く使う言葉も難しかったので、楽しむというよりは緊張感を持って参加していました。信州大学の先生や先輩の方の英語を聞いて、こんなにも英語を使いこなせる人がたくさんいるのかと驚きました。私は、授業中はついて行こうとひたすら必死だったのですが、授業後に内容を振り返ると、失敗よりも他の学生の方のあたたかさや授業の楽しさをたくさん思い出して、参加して良かったと毎回思っていました。私の英語はまだまだ日常的に使えるものとはいえないので、その場その場での英語のやり取りには多くの課題が残っています。しかし、自分の考える授業案をプレゼンし合ったときに、ウプサラ大学の学生が私の授業内容を面白いと言ってくれて、自分の英語がきちんと伝わっていたことと教育の面でも先輩の方々に自分の考えを褒めていただけたことがとても嬉しく印象に残っています。スウェーデンと日本の学校の文化や制度などの違い、先輩の方の考えをたくさん知り吸収でき、教育を学ぶ者としても大学生同士の授業には刺激を受けました。
  • (Global Friends Meet Upについて)同じ班の大学院の先輩と当日に向けて話したとき、不安な点があるということだったので、子供たちが緊張しすぎず楽しめるか、私もきちんと支えられるか心配していました。はじめはぎこちない部分もありましたが、お互いに質問し合ったりちょっとしたミスも一緒に笑い合ったり出来たことで、子供たちの中に良い雰囲気が生まれたと感じました。長野小の子供たちは、ジェスチャーゲームや質問を通して、英語が伝わったことをとても喜んでいるように見えました。特に、Samskolanの子がスウェーデンの首都を聞いてきたときに、正解を答えた子がこれまでの活動の中で一番嬉しそうな顔をしていたことが印象的でした。それが私も嬉しかったし、喜んでいる長野小の男の子の様子を見てサムスコラの子供たちも楽しそうでした。翌日の振り返りでも挙がっていたことですが、コミュニケーションは、言葉がなくても生まれるのだと実感しました。言葉が足りなくても、うまく話せなくても、言葉以上に伝わるコミュニケーションがあり、そこから喜びや楽しさが生まれることを私も子供たちから学びました。そして、反省としてこれから子供たち自身の英語を向上させていきたいと話し合っていましたが、それを伸ばすにあたり、今回のプロジェクトの楽しかった思い出や嬉しかった気持ちを力にして欲しいと思いました。
  • (Global Friends Meet Upについて)子どもたちが時間が足りないと思うような会を開くことができ、これからの英語学習のモチベーションになるような経験になったと思う。様々な人が関わる会だったので、準備段階ではそこの共通理解が大変だったが、関わることができてよかった。私も楽しめた。
  • (Global Friends Meet Upについて)It was wonderful. I was surprised by pupils' passion to communicate. Despite the difference in English ability, all the students in my group were having fun. I am certain that it will be a great incentive for students to learn English.
  • (Global Friends Meet Upについて)小学生、大学生ともにリアルタイムのミーティングは10回のメールより価値があると思います。

【担当者・協力者】(敬称略)

2 件のコメント:

  1. 林先生、御関係のみなさま、半年間大変お疲れ様でした。こうした活動が今後ますます発展するといいですね。期待しています!

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  2. ブラボー(^0^)
    コロナ禍の逆境にめげず、できることを誠実にご尽力された林先生ほか関係者の皆様に感謝申しあげます。学部運営会議でも話題にします。新年度の取り組みを期待しています。

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