2021年3月10日水曜日

研究紹介: スウェーデンはなぜ一斉休校にできなかったのか

田平修・林寛平「コロナ禍におけるスウェーデンの学校教育」日本比較教育学会(編)『比較教育学研究』62, 2021, pp.41-58.


Shu TABIRA & Kampei HAYASHI (2021) Swedish Schools during COVID-19 Crisis, Bulletin of the Japan Comparative Education Socitety, 62, pp.41-58.


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新型コロナウイルス感染症の拡大により各国が都市閉鎖や一斉休校に向かう中、スウェーデンは特異な対応を採ってきた。この間、国内での賛否両論はもちろんのこと、米国のトランプ大統領がTwitter上で批判したり、「ノーガード戦法」と揶揄されたりするなど、各国から大きな関心を集めてきた。

スウェーデン政府は新型コロナウイルスを「社会的脅威(samhällsfarlig)」とし、感染拡大を抑制することで人々の生活、健康、仕事を守ることを目指した。王室もビデオメッセージを公表するなどして、危機感を共有してきた。しかし、他国が非常事態を宣言して行政府の裁量を拡大する中で、スウェーデンでは法改正と強制力を伴わない「勧告(rekommendation)」を組み合わせた穏やかな対応が採られた。スウェーデンは平時の延長として新型コロナウイルスに対峙してきたと言える。特に、個人と社会の両方を守ることを掲げ、リスクの高い人を隔離し、それ以外の人には感染症対策の上、これまで通りの活動を推奨した点が特徴的である。

これらの対応は主に感染対策法と労働環境法、そして公衆衛生庁が2019年に策定したパンデミック準備計画に基づいている。準備計画はインフルエンザを想定したものだが、新感染症全般に応用できる内容で、パンデミックへの備え、コミュニケーション計画、薬へのアクセスと利用の3部構成となっている。このうちコミュニケーション計画では、情報が錯綜することで無用な混乱や政府への不信感を生まないよう、各機関の役割を明確にすることが示されている。その原則は以下の3点に要約される。

責任原則: 通常時の事業責任者が危機時にも責任を持つ。部門間で協働する際も同様
平等原則: 危機時の活動はできる限り通常時と同様に行うべき
近接原則: 危機は、それが発生した場所で、最も影響を受け、かつ責任のある者によって対応されるべき

世界保健機関(WHO)がパンデミックを宣言すると、公衆衛生庁は3月17日には高校や大学等は通信授業に移行するよう勧告した。高校生以上は学校に集まらなくても授業ができることから、感染拡大を予防し、最も脆弱な人が医療を受けられるようにするためだと説明された。また、高校生や大学生等は幼い子供と違ってケアが必要ないことや、授業集団が大きいことが理由として挙げられた。

プリスクールと基礎学校は、一部の自立学校(運営費の大半を公費で運営される私立学校)が独自に閉鎖した例や、生徒や教職員から感染者が出た学校を除き、全国的な休校にならなかった。公衆衛生庁は学校閉鎖が感染拡大のリスクを減らすという科学的な根拠はないとして、子供を自宅に待機させるのは効果的な対応ではないと考えていた。これに加えて、休校を措置する法的根拠がなかったこと、教育を受ける権利と義務の扱い、学校の保育機能に関する議論、学校の福祉的機能に関する議論などが背景にあった。

教育法では、学校教育の目的を「学校における教育は子供と生徒が知識と価値を獲得し、発展させることを目的とする。これはすべての子供と生徒の生涯にわたる学習意欲を促進するものである。教育はまた、スウェーデン社会が基づく人権と基礎的な民主主義的価値を尊重することを伝え、定着させるものである」としている。また、これに続けて「教育は子供と生徒の多様なニーズを考慮に入れなければならない。子供と生徒は可能な限り成長するように支援と刺激が与えられるべきである」とうたわれている。本稿では、パンデミック下において、スウェーデンの学校がこの目的達成にどのように取り組んできたのかを整理し、この間の議論の背景にある制度や思想を考察する。(「はじめに」より)


はじめに
1. なぜすぐに休校にできなかったのか
2. なぜいまだに休校しないのか
 (1) 教育を受ける権利と義務の扱い
 (2) エッセンシャルワーカーのジレンマ
 (3) 学校の福祉的機能の維持
3. 学校はどう変わったか
 (1) ニューノーマルと教員の過重負担
 (2) 子供の知る権利の保障
 (3) ウィズ・コロナの授業
おわりに

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