北欧教育研究会編(2021)『北欧の教育最前線-市民社会をつくる子育てと学び』明石書店
書籍はこちらからご購入いただけます(2021年2月28日発売予定)。
みなさんは、学校の体育館の壁に、何列も平行に並んだ木の棒が設置されているのを見たことがありますか?「肋木」(ろくぼく)という名の体操器具ですが、登ったり、足をかけて逆さ吊りになったりした人もいるでしょう。あるいは、タオル掛けとして使った人の方が多いかもしれません。体育でよく使われる跳び箱や平均台、肋木は戦前にスウェーデン体操の道具として導入されたものです。それ以来100年以上にわたって日本の体育指導に使われてきました。今となっては、自然な風景として学校に溶け込んでいます。
子どもから大人まで大人気のムーミンは、フィンランド発と思われがちですが、原作はスウェーデン語で書かれています。当初の作品では毒々しく、醜いキャラクターでしたが、これをカラフルに、ポップに愛らしく表現したのは日本のアニメ制作会社でした。原作者のトーベ・ヤンソンは色付けに不満があったようですが、フジテレビでのアニメ放送がなければ、いまのような世界的なキャラクター・ビジネスは成立していなかったかもしれません。
地理的には遠い北欧ですが、その影響は意外と私たちの身近にあります。本書では、魅力たっぷりの北欧の教育を紹介するとともに、その「最前線」で私たちと同じように悩み、奮闘している様子を等身大でお伝えしたいと思います。また、原稿の執筆にあたっては、研究者としての専門性も踏まえて、理想的な面だけではなく、その成り立ちの歴史や文化、社会を少しでも深掘りして、立体的に理解できるように書くことを心がけました。
本書出版のきっかけは、『教育新聞』での連載「世界の教室から 北欧の教育最前線」にあります。北欧教育研究会のメンバー3人が子連れでスウェーデンのウプサラ大学に赴任したことを契機に、2018年に始まりました。本書はそれらの連載記事を再編集し、さらに書き下ろしの原稿を加えて刊行するものです。
全体は5章立てになっています。第1章は本のタイトル通り「北欧の教育最前線」として、みなさんにまず読んでいただきたい特徴的なトピックを集めました。第2章は「伝統と革新」です。北欧の教育の歴史や思想に触れて、「どうしてそうなっているのだろう?」という疑問にお答えします。第3章は「日常の風景」です。本書の狙いでもある「生活者目線」で書いた原稿を集めました。魅力いっぱいの北欧ですが、そこに暮らす人々は普段どのような生活をしているのでしょうか。第4章は「課題と挑戦」です。日本と共通した課題や、日本への示唆が得られるような挑戦を取り上げます。
第5章は「光と影」です。理想郷のように見られる北欧ですが、その裏には私欲まみれのスキャンダルもあります。本書の最後に、人間らしいドタバタ劇をお示しすることで、少しでも北欧への親近感を感じていただければと思います。このように章立てをしていますが、もともとコラムとしてそれぞれの原稿が独立していたものなので、どこから読み始めていただいても結構です。目次をご覧いただき、気の向くまま、興味のある章から読み始めてください。
題名どおり、本書は最新事情を扱っています。そのため、内容はすぐに古くなってしまうかもしれません。しかし、「今」のひとつひとつの出来事は、これからの教育を占う経験として活用されるでしょう。その意味で、本書が皆様の理解に少しでもお役に立てると嬉しいです。
北欧教育研究会は2004年に始まった「ファンクラブ」です。研究者や学生だけでなく、主婦やビジネスマンなど、多様なメンバーが集まって情報交換や勉強会を重ねてきました。本書でも随所で説明されるように、北欧は権威主義を嫌います。そのような社会に魅せられた私たちも、一部の「専門家」が独り占めするのではなく、「みんなの北欧」をそれぞれの好みで嗜む会を作りたいと思っています。この本を手に取ってくださったみなさんも、機会がありましたら、研究会にぜひご参加ください。
本書の編集は、連載チームでもある林寛平、本所恵、中田麗子、佐藤裕紀が担当しました。みなさんの感想を聞ける日を楽しみにしています。(「はじめに」より)
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