2014年12月2日火曜日

衆院選2014 教育・子育てマニフェスト比較 ⑤外国語・グローバル化

信州大学教育学部「比較教育学演習」の授業で、第47回衆議院議員選挙の各党のマニフェストから、教育と子育てに関する政策をまとめました。


外国語・グローバル化

自由民主党
・学習指導要領の改訂に着手し、小学校英語教育の早期化、高校の日本史必修化、特別の教科「道徳」、新科目「公共」の設置、日本の領土に関する記述を充実させるとともに、新しい教科書検定基準に基づく教科書検定を進めます。
・小中高を通じた英語教育の強化、「スーパーグローバルハイスクール」や「スーパーグローバル大学」の整備、国際バカロレア認定校の大幅増を進めます。
・官民の共同による留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」により、日本人留学生の海外留学や外国人留学生の受け入れを2020年までに倍増します。

次世代の党
・国際的に第一級の知力と科学技術の革新力を持たせるための教育の重視
・文化による国際貢献、「世界の文化が輝き溢れ、交流する場」の実現


担当: 林 寛平
学生: 飯島香純、大木健晴、森下結衣、加地里帆子、山田真由美

衆院選2014 教育・子育てマニフェスト比較 ④道徳教育

信州大学教育学部「比較教育学演習」の授業で、第47回衆議院議員選挙の各党のマニフェストから、教育と子育てに関する政策をまとめました。


道徳教育

自由民主党
・教育行政の責任体制の明確化等を行い、いじめ問題に的確に対応できる体制を整えるとともに、道徳を「特別の教科」として位置づけ、道徳教育を充実します。

日本共産党
・国定道徳の押しつけでなく、市民道徳の教育を
安倍首相は愛国心教育を強調し、「道徳の教科化」をすすめようとしています。しかしそれは、教科書検定などを通じて国に都合のいい愛国心などを押しつけようというものです。しかも文科大臣は戦前「お国のために血を流せ」と教えた教育勅語を「しごくまっとう」と礼賛している人物です。私たちはこのような国定道徳の押しつけに反対し、すべての人に人間の尊厳があるという民主主義を土台にし、子ども自身の選択による価値観形成を大切にする市民道徳の教育を提案します。愛国心も戦前の偏狭な愛国心の問題を伝えてこそ、世界の人々と共生できるものとなりえます。憲法や子どもの権利条約などの学習、身の回りの問題をみんなで解決していくクラス討論や学校行事などの自治活動、すべての授業や生活で子どもが人間として大切にされ体罰などがきびしく批判されること、そうした教育全体をとおした道徳教育を尊重します。「道徳の時間」はそれらの一つとして位置づけてこそ有効なものになります。

次世代の党
・「独立自尊」の精神を養い、愛国心を育む教育
・社会における公正と秩序を維持するための規範・道徳教育


担当: 林 寛平
学生: 飯島香純、大木健晴、森下結衣、加地里帆子、山田真由美

衆院選2014 教育・子育てマニフェスト比較 ③少人数学級

信州大学教育学部「比較教育学演習」の授業で、第47回衆議院議員選挙の各党のマニフェストから、教育と子育てに関する政策をまとめました。


少人数学級

民主党
・一人ひとりの子どもがきめ細かい教育を受けられるよう、義務教育における35人以下学級を着実に推進します。

公明党
①新しい教育の推進
少子化の進展などに対応した新しい教育への転換が重要であるとの視点に立ち、子どもたち一人ひとりの個性や学習状況等に応じた、きめ細やかな教育を推進します。

日本共産党
・「40人学級にもどせ」などとんでもない。少人数学級に踏み切る一点での共同をひろげ、実現させます。
・今年10月、予算編成をすすめる財務省が「35人学級は効果がない。来年から40人学級に戻せ」と言いだしました。大多数の教育関係者、国民が反対の声をあげています。少人数学級をすすめるのか、元に戻すのか、選挙の大きな争点です。
・安倍政権が暴走 35人学級は2011年に小1で実現、2012年に小2(※)に広がりました。ところがその直後にうまれた安倍政権が、それ以上の学年への35人学級の拡大をとめてしまいました。そしてついに財務省が「40人学級にもどせ」と言いだしたのです。とんでもない暴走です。選挙と世論で変えるしかありません。(※小2は法律化されず予算上の措置のみで実施)
・少人数学級推進の一点で共同を広げ法案を成立させます。
・少人数の方が子どもをていねいにみられることは明らかです。文部科学省さえ、少人数学級の良さを認めています。日本共産党は少人数学級推進の一点で共同をひろげ、他党とも協力し、少人数学級推進の法律を制定するため全力をつくします。同時に、高校に少人数学級をひろげます。

社会民主党
・30人以下学級の早期完全達成と教員定数の拡大


担当: 林 寛平
学生: 飯島香純、大木健晴、森下結衣、加地里帆子、山田真由美

衆院選2014 教育・子育てマニフェスト比較 ②地域と学校、コミュニティスクール

信州大学教育学部「比較教育学演習」の授業で、第47回衆議院議員選挙の各党のマニフェストから、教育と子育てに関する政策をまとめました。


地域と学校、コミュニティスクール

自由民主党
・教員と多様な専門性を持つ地域のスタッフが一体となって学校改革を進める「チーム学校」づくりを進めるため、教育現場の体制の充実を図り、開かれた学校を核として地域力を強化します。
・自治体との連携強化等による土曜日の教育活動の充実・推進を図り、小中高あわせて1万2千校での実施を目指します。

民主党
・保護者、地域住民、学校関係者、教育専門家等が参画するコミュニティスクール(学校理事会)の導入を促進します。

維新の党
・公設民営学校の設置等、地方の発意で多様な教育のあり方を可能にする。

公明党
・双方向型・課題解決型授業の導入など、子どもたちの創造性や主体性を伸ばす授業への転換を図るほか、チーム学校やコミュニティ・スクールなどの導入を積極的に進めます。
・また、少人数学級および少人数教育の一層の定着化や長期的な視点に立った教職員定数の計画的な改善に取り組むとともに、教員と学校現場の質の向上を図ります。

日本共産党
・子どもの豊かな成長を保障する地域づくりをすすめます。
・学校の一方的統廃合に反対します。政府は、教育予算削減のために学校統廃合の推進を打ちだしました。しかし、小規模な学校は子ども一人ひとりに目が行き届くなどの優れた面があります。そうした条件をこわし、子どもの通学を困難にし、地域の教育力を弱める、子どもの集中でマンモス化するなど子どもの学習権を後退させ、地域の文化、コミュニティの拠点を奪う、学校の一方的統廃合に反対します。安倍政権のすすめる「小中一貫校」構想は、学校統廃合をすすめ教育予算を抑制することがねらいです。しかも小学校高学年の自覚などこれまであった子どもの成長に有益なものが失われる、学校がマンモス化する、中学の管理・テストのしくみが小学校に拡大するなど多くの問題をかかえています。まともな教育効果の見通しのもないまま、経済効率のための「小中一貫校」に反対します。

社会民主党
・地域のことは地域で決める、分権・自治の推進
大企業優先のアベノミクスによる「地方創生」は、格差拡大と中山間地、小規模町村の切り捨てを加速させかねません。地域における安定雇用の創出とそれを支える自立的な地域循環型産業の構築、子育て支援や医療の充実など地域で安心して暮らすための生活インフラ拡充などを進め、地域から元気・安心・やさしさを再構築します。


担当: 林 寛平
学生: 飯島香純、大木健晴、森下結衣、加地里帆子、山田真由美

2014年12月1日月曜日

衆院選2014 教育・子育てマニフェスト比較 ①前回選挙のおさらい

衆院選2014 前回選挙のおさらい

衆院選2012 マニフェスト比較 教育政策
「2012年衆院選における各政党のマニフェストから教育と子育てに関する政策を集めました。」


第46回衆議院議員選挙の結果 (2012年11月16日実施)

議員定数     480人

自由民主党    294人
民主党      57人
日本維新の会   54人
公明党      31人
みんなの党    18人
日本未来の党   9人
日本共産党    8人
社会民主党    2人
新党大地     1人
国民新党     1人
新党日本     0人
新党改革     0人
幸福実現党    0人
無所属      5人

参議院の現況 (2014年11月21日現在)

選挙区選出議員  146人
比例代表議員   96人
議員定数     242人

自由民主党    113人
民主党      58人
公明党      20人
みんなの党    12人  →2014年11月28日解党
維新の会     11人
日本共産党    11人
次世代の党    5人
社会民主党    3人
新党改革     1人
無所属の会    1人
生活の党     2人
無所属      1人
各派に所属しない議員 3人
欠員       1人

任期満了日
第22回参議院議員選挙で議席を得た者 2016年7月25日
第23回参議院議員選挙で議席を得た者 2019年7月28日

2014年11月27日木曜日

「未来型教育の体験授業ワークショップ」(12/9-10)を開催します。



【終了しました】報告はこちら


シンガポール国立教育研究所からChee Kit Looi教授をお招きして、以下の通り、国際ワークショップを開催します。どなたでもご参加いただけます。お申込みはshinshuedu@gmail.comまで。

ご案内のチラシはこちらからダウンロードできます。

 趣旨:
コンピュータやインターネットなどの技術革新は学習と授業のあり方を大きく変えました。最近では、反転授業やゲーミフィケーションなど、新しい教育方法が次々と提案されています。これらの指導法は、技術革新によってもたらされましたが、実は技術と切り離しても十分使えます。たとえば、反転授業はインターネットにつながっていなくてもその効果を発揮できますし、ゲーミフィケーションはこれまで使ってきた教材をアレンジすればたちまち魅力的な形に変身します。そこで、ICT( 情報通信技術) の教育活用の先進国であるシンガポールからチー・キット・ルーイ教授をお招きし、地域の方とともに、新しい教育方法を体験するワークショップを開催します。

ワークショップは2 日間で構成され、実際に反転授業やゲーミフィケーション、 ジグソー法などの新しい指導法を体験しながら、「明日から使える」アクティブラーニングのあり方について考えましょう。



日時・内容: 2014年12月9日(火) 16:30~18:30 (一日目)
         2014年12月10日(水)16:30~18:30 (二日目)
場所:     信州大学教育学部 北校舎 N201教室
        アクセス方法はこちら
          http://www.shinshu-u.ac.jp/guidance/maps/map01.html#address
内容:     基調講演 Chee Kit Looi教授(シンガポール国立教育研究所)
        「ICTが学習と授業をどう変えるのか」(仮題)

主催:     信州大学教育学部
後援:     長野県教育委員会・長野市教育委員会

対象・申込み:  どなたでもご参加いただけます。(参加費無料・逐次通訳つき)
           参加ご希望の方は、
           ①お名前 ②性別 ③ご所属(信大生は学籍番号) ④電話番号
           をお書き添えの上、下記までご連絡ください。

         【申込先】信州大学教育学部(担当・林寛平)
          メール shinshuedu@gmail.com FAX 026-238-4203
          ※2 日間連続での参加が望ましいですが、どちらか1 日や部分参加も受付けます。 
          ※折り返し、受付番号をメールでご連絡いたします。
          ※申し込み多数の場合は先着順とさせていただきます。( 最大120 名)




本イベントは「文部科学省地(知)の拠点整備事業」の支援を受けて実施します。

2014年6月30日月曜日

【寄稿】教員は「忙しい」なんて言ってない ―国際教員指導環境調査(TALIS)をどう読むか― (BLOGOS)

BLOGOSに以下の文章を寄稿しました。
http://blogos.com/article/89461/


【寄稿】教員は「忙しい」なんて言ってない ―国際教員指導環境調査(TALIS)をどう読むか―

林寛平(信州大学・教育学部・助教)

経済協力開発機構(OECD)が2013年に実施した国際教員指導環境調査(TALIS)の結果が公表された。この調査は、34か国・地域の中学校に相当する学校の校長と教員を対象とし、各国の2012年度末3か月間にアンケートを行ったものだ。

主要メディアの第一報としては、教員の勤務時間が約54時間と世界で一番長く、「日本の教員は多忙だ」というものだった。しかし、今回の調査で「忙しい」かを尋ねる質問項目は含まれていない。勤務時間が長く、そのうち、課外活動の指導時間が各国との比較で際立って長かったことは事実だが、それを「多忙だ」と解釈するのは危ういと感じる。

調査の目的は政策提言

この調査の目的は、教員と指導に関する国際的な指標を作り、政策に関連した分析をタイムリーかつ費用対効果のある形で提供することだ。そのため、この調査の指標を見るときには以下の3つの視点が重要である。まず、数字を独り歩きさせるのではなく、教員政策あるいは制度との関連の中で分析すること。また、その分析は、教員個人に帰すべきものではなく、政策立案に反映すべきものだということ。加えて、国際指標であることから、他国の制度や政策との比較することに意義があるということだ。

勤務時間が長いことを「多忙だ」と解釈してしまうことは、この問題を教員個人の問題に矮小化してしまう恐れがある。そうすると、「忙しいのは仕事ができないせいだ」「忙しいなら部活の指導をやめればいいじゃないか」「先生方は人がいいから次々と仕事を抱え込む」といったことが議論の焦点になってしまい、TALIS本来の目的に則わない。必要なのは、勤務時間が長いことの制度的な背景を探り、政策的な対応を検討することである。

勤務時間が長い国は合法的かつ財政負担なく働かせる制度がある


表1.教員の労働時間
 
表1に、今回調査で明らかになった各国の教員の勤務時間を長い順に並べた。日本の公立学校の管理職以外の教員には、給与の4%分の教職調整額が一律に支給されている。 この措置があるため、労働基準法第37条の時間外労働における割増賃金の規定が適応されず、時間外勤務と休日勤務に対する手当は支給されていない。つまり、いくら残業しても給与は変わらず、国や自治体にとって追加のコストがかからない仕組みになっている。ちなみに、教職調整額の4%という支給率は昭和41年の「教職員の勤務状況調査」の残業時間の長さ(約8時間)を基準に設定されたが、その後勤務時間が増加している(平成18年調査で約35時間)にもかかわらず、見直しはされていない。

日本に次いで長時間勤務となっているアルバータ(カナダ)では、法定勤務時間が週44時間以内と定められているが、労使間の合意があれば労働者は1日12時間まで働くことができる。 教員の労働条件については、学区ごとに労使間で協約が結ばれている。 本来、法定労働時間を超えた分については平時の1.5倍の時間外手当を支給することになっているが、多くの場合、教員の個人的な貢献として扱われ、手当は支給されない。

勤務時間が三番目に長いシンガポールでは、雇用法第38条の規定に則り、教員の勤務時間は週44時間以内、時間外勤務は1か月あたり72時間以内という規制がある。6つまり、週当たり最大62時間までは合法的に働けることになる。雇用法には、時間外手当は平時の時給の1.5倍以上にすべきことが規定されているが 、教員に時間外手当が支払われることはほとんどないといわれる。

イングランドの一般教員の勤務条件は、年間勤務日数を195日、校長の具体的な指示を受けて働く時間を年1265時間と定められている。ただし、この時間内に仕事が片付くことはまれで、1265時間を超えることが通常であるという。また、時間外手当に関する規定はなく、勤務時間や労働条件については個々の教員と学校間で協議することになっている。

アメリカの教員は連邦法で時間外手当規則の適応対象外とされている。勤務時間は学区と教員組合との協約で定められているが、基本的に時間外手当が支払われることはない。

表1では、EU加盟国に青色の背景をつけてある。EUでは1週間の労働時間の上限を48時間(時間外労働を含む)に制限している ことから、TALIS参加国も法的に許容された時間内に収まっている。なお、EU加盟国で勤務時間が最長のポルトガルは、時間外手当の割増率が50%とEU加盟国の中で最低となっている。

以上のことから、今回調査で勤務時間が長いとされた国の教員は、いずれも合法的に長時間労働をしていて、時間外勤務に対する財政負担がないという特徴が共通している。一方で、EUに加盟している各国では、長時間勤務に対する規制が有効に機能しているようだ。日本の教員の勤務時間を政策的に減らそうとするなら、教員を「働かせない」制度を作る必要がある。しかし、仕事の負担を減らさずに勤務時間を制限することになれば、教員のさらなる「多忙化」を招くかもしれない。

教職への満足度は他の職業との比較で理解すべき

今回の調査でもう一点議論を呼びそうなのが、「もう一度仕事を選べるとしたら、また教員になりたい」かを尋ねる質問に対し、肯定的に答えた教員の割合が日本は参加国中2番目に低く、58.1%に留まったという点である。参加国平均の77.6%に比べて著しく低い数値である。また、「全体としてみれば、この仕事に満足している」という質問に対しても、イングランドに次いで85.1%という低さだった(参加国平均91.2%)。このことから、学校現場の過酷な労働環境が浮かびあがる、と各メディアは報じている。しかし、「この仕事に満足している」と答えた85.5%と言う数字はそれほど低いものだろうか。むしろ、参加国平均の91.2%という高い満足度の方が驚異的であり、世界的に教員が魅力ある職業であることを示しているように思う。

また、これらの質問の前後には、「教員であることは、悪いことより、良いことの方が明らかに多い」(参加国平均77.4%、日本74.4%)、「教員になったことを後悔している」(参加国平均9.5%、日本7.0%)、「他の職業を選択した方が良かったのではないかと思っている」(参加国平均31.6%、日本23.3%)という項目がある。いずれも、日本の教員の回答は参加国平均に比べて同程度か、教職を選択したことを肯定するものであり、必ずしも教職に不満があるとは言い切れない結果となっている。

これらの質問項目では、教員の仕事への満足度が高いことよりも、その度合いが他の職業よりも優位であることが重要である。OECDが国際調査をする背景には、各国における教員不足と人材不足がある。諸外国では、教員は尊敬され、安定して、社会的地位のある職業とは限らない。教員になるにあたって特別な教育を受ける必要がない国も多く、移民も含め誰でも教員になれる場合もある。そのため、各国では優秀な人材をいかに教職にリクルートするかが課題となっている。 日本の結果を見る限り、過半数の教員は自身の仕事に満足しているし、大多数の教員にとって他の職業との比較では教職の魅力が勝っている。だとすれば、教職が過酷だとことさらに強調するよりも、教員が日常の仕事の中で感じているやりがいや魅力を上手に発信する方が有効ではなかろうか。

勤務時間と満足度に相関は見られない

日本の教員の満足度を理解するにあたって興味深いのは、勤務時間と満足度に相関は見られないということである。 満足度と正の相関があるのは、「他の教員の授業を見学し、感想を述べる」ことを年に5回以上していると答えた教員 や「現在、自分を支援してくれる組織内指導者(メンター)がいる」と答えた教員である 。一方で、自分がメンターを務めたり、「学校の公式の取組である組織内指導(メンタリング)や同僚の観察・助言、コーチング活動」に参加したりすることと仕事の満足度は相関がない。これらの指標からは、学校内でのインフォーマルな学び合いに参加している教員ほど仕事に対する満足度が高いことが推察される。つまり、TALISが示唆するところでは、教員の満足度を高めるには、勤務時間の増減よりも、学校現場におけるインフォーマルな学びを促進するような政策の方が筋が良いということになる。

広域人事のメリットを活かす政策を

TALISでは、経験のある教員がどういった学校に配置されているのかについても調べている。日本については、5年以上の教職経験のある教員が比較的課題の少ない学校に配置されている傾向が明らかになった。 裏を返せば、家庭の社会経済的背景が不利な生徒や特別なニーズを持つ生徒の割合が多い学校には、若く経験の少ない教員が多く配置されているということになる。こういった課題の多い学校で働く教員は、仕事の満足度が低い傾向にある。

日本では、教員の採用や配置を都道府県や政令指定都市が担当しており、広域人事を行っているまれな国である。多くの国では、教員人事を学校長や学区といった比較的小さなまとまりで行っている。学校長が人事権を持つ場合、教員になりたい人はそれぞれの学校に直接面接に出かけることになる。裕福な家庭が多く、落ち着いた地域は人気が高く、離職率も低くなることから、競争力が高くなり、優秀な人材を確保できる。一方で、地方や荒れた地域の学校では、志望者を確保できなかったり、できたとしても、他の学校に就職できない人や、若くて職歴のない人たちだったりする。そうして、厳しい環境の学校はさらに厳しい環境に追い込まれていく。広域人事のメリットは、こういった弊害を平準化できることにある。しかし、TALISの上述の結果を見る限り、日本はそのメリットを十分に活かせていないようだ。

日本では、団塊世代の大量退職と新規教員の大量採用に加えて、30~40歳代の教員層の空洞化が進んでいる。多くの学校では4~5割が50歳代の教員構成となるなど、極端な中堅不足と年齢構成のいびつさが問題となっている。 若い教員が課題の多い学校に配置され、年の近い同僚も少ないという環境があるとすれば、仕事の満足度は得られないだろう。若手教員の離職率上昇という問題を考えるとき、この指標がある程度の示唆を提供してくれるように思う。

意識調査の利点を活かす

今回のTALISは意識調査であり、公的な統計等を用いた調査ではない。意識調査の強みは、当事者が「どう感じているか」知ることができ、統計等と組み合わせることによって状況を立体的に解釈できる点にある。教員の勤務実態 や各国の教員政策についてはすでに多くの調査や研究が蓄積されているので、複数の指標を見比べて理解することが重要になる。

ただし、TALISでは指導とその効果を関連付ける質問は行っていない。そのため、TALISの指標とPISA等の指標とを関連付けて分析する際、相関関係は指摘できたとしても、因果関係は証明できないという点に留意する必要がある。

TALISは2008年から行われ、今回が2回目の調査になる。日本は今回初めて参加したが、今後も繰り返し調査が行われるのであれば、経年での政策評価が可能になるだろう。これにより、優秀な人材を教職に誘い、教育の質が高まるような政策・制度の検討が進むことを期待したい。


1.「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法
2.文部科学省「教職調整額の見直しについて(案)
3.Alberta, Jobs, Skills, Training and Labour, “Standards and Definitions ”.
4.The Alberta Teachers’ Association, “Collective Agreements”.
5.The Alberta Teachers’ Association, “Hours of Instruction”.
6.Singapore, “Employment Act (Chapter 91)”.
7.諸外国教員給与研究会『諸外国の教員給与に関する調査研究 報告書』(平成18年度文部科学省委託調査研究)、2007。
8.Department for Education, England, “School Teachers’ Pay and Conditions Document 2013 and Guidance on School Teachers’ Pay and Conditions”, 2013.
9.諸外国教員給与研究会、2007。
10.欧州連合「労働時間の編成の一定の側面に関する欧州会議及び閣僚理事会の指令(2003/88/EC)」(日本語での説明はhttp://eumag.jp/question/f1113/#note01)
11.Béla Galgóczi and Vera Glassner, ”Comparative study of teachers’ pay in Europe”, EI/ETUCE joint research project, ETUI-REHS Research Department, pp.13-14.
12.OECD, “.TALIS 2013 Result, An International Perspective on Teaching and Learning”, 2014, pp.407-408.
13.たとえばEUでは他の職業と教員給与の国際比較を行っている。Ulf Fredriksson, “Teachers’ salaries in comparison with other occupational groups”, JRC Scientific and Technical Reports, 2008.
14.OECD, 2014, p.423.
15.OECD, 2014, p.425.
16.OECD, 2014, p.419.
17.OECD, 2014, p.41.
18.OECD, 2014, p.416.
19.末松裕基「シンガポールにおけるスクールリーダーシップ開発の動向」、『東京学芸大学紀要 総合教育科学系Ⅰ 65』、2014、53-64頁、中央教育審議会・教員の資質能力向上特別部会「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について(審議経過報告)
20.たとえば、国立大学法人東京大学『教員勤務実態調査(小・中学校)報告書』(平成18年度文部科学省委託調査研究報告書)、2007。