2015年9月11日金曜日

教育動向: ハリケーン・カトリーナから10周年 ニューオーリンズの教育の今

アメリカの教育事情 (久原みな子)

 8月末でアメリカ南部を襲ったハリケーン・カトリーナの被災から10年が経過した。特に被害が大きく、貧困層にあるアフリカ系アメリカ人の多かったルイジアナ州ニューオーリンズでは、2005年当時128校あった公立学校の実に100校以上が被害にあい、公共サービスの麻痺とともに、公立学校制度が機能不全に陥った。被災前からすでに学業成績の振るわない学校が多かったニューオーリンズでは、2003年にそれらの学校の救済のために、州が公立学校の運営を引き受ける特別救済学区(RSD, Recovery School District)を作り、5つの公立学校がチャーター・スクールとなっていた。

 しかし、2005年のハリケーン被害により、RSD管轄の学校は激増し、2014年までにニューオリンズの全ての公立学校がチャーター・スクールになるという全米でもはじめての現象が起こった。ニュー・オーリンズおよびRSDは、州への権限委譲とチャーター・スクールの進出がすすめられている他の都市(ミシガン州デトロイト市など)や、競争と選択の原理を教育に持ち込もうとしている共和党次期大統領候補者たちが改革のモデルとするようになった。

 実際、様々な統計や調査では、この10年間で、ニューオーリンズの学校での中退率は下がり、学業成績は上昇し、特別支援の必要な生徒が学校に在籍する率も上昇したと報告されている。しかし、他方では、チャータースクールが生徒を選り好みできること、そのために学業成績が上昇したかような統計がでていること、学校における人種格差が広がったことなどが指摘され、市場原理に基づいた学校運営と、地域に根ざす学校が消失したことに批判と疑問の声が上がっている。

  • Jerusha Conner. “'Every Kid Is Money.'” US News & World Report, 2015/08/27.
  • Alan Greenblatt. “New Orleans District Moves To An All-Charter System.” NPR, 2014/05/30.
  • Lydia Smith, “Hurricane Katrina 10 years on: New Orleans charter schools improved education from 'F to C.'” International Business Times, 2015/08/22.

カトリーナ被災10周年の節目に、各メディアでは特集記事が組まれている。例えば、映像や写真をふんだんに使ったEducation Weekの特集もチャーター・スクールの問題を取り上げている。
  • Education Week. “The Re-Education of New Orleans.” 2015/08/29.

2015年9月9日水曜日

ヨーロッパ教育学会で最優秀ポスター賞を受賞しました

 2015年9月7日からブダペストで開催されたヨーロッパ教育学会(ECER)において、若手研究者会議(ERC)の最優秀ポスター賞を受賞しました。

 発表のタイトルは"An Analysis of the Global Education Policy Market -Its Rise and Impact"で、58か国、約200人の発表者の中から選ばれました。ヨーロッパ域外からの参加者としては初めての受賞です。

 授賞式は9月8日の17:00から行われた若手研究者会議の閉会式の中で行われ、ヨーロッパ教育学会会長、ハンガリー教育学会会長からお祝いのお言葉をいただきました。また、若手研究者会議委員長から証書を授与されました。副賞として、来年8月にダブリンで開催される学会への無料招待と渡航費の補助、賞金500ユーロが後日授与されます。

 ECERの受賞者紹介ページはこちら


練習用に録音したプレゼンテーションをYoutubeに掲載しました。(英語・日本語字幕あり)



 
 
 
参考:

 

2015年8月25日火曜日

教育動向: 大学スポーツの選手に給付金

 アメリカの教育事情 (久原みな子)

 アメリカでは新しい学校暦が始まる時期である。今年度より、特定の大学スポーツチームで競技する学生に対し、これまで認められていた奨学金(学費免除)、寮費、食事代、本代などに加え、給付金が支払われることになった。
 
 全米の大学スポーツ競技を管理・運営する全米大学体育協会(NCAA)は、これまで約50年にわたり、大学スポーツはアマチュアスポーツであるとし、競技をすることの対価としての支払を厳しく禁止してきた。ところが2014年には、大学スポーツがテレビ中継契約やグッズ販売などで学生の肖像を利用しているのにもかかわらず、学生にその収益が還元されていないことなどを不服とする訴訟があり、NCAAが敗訴、学生への支払いや奨学金の規定の見直しがすすめられていた。
 
 今回の改訂で、奨学金付きスポーツ選手のいる大学(ディヴィジョンIという区分)には、NCAAから合計1億8千9百万ドルにのぼる給付金が支払われることになる。こうしたかたちの給付金の平均は学生一人あたり年額平均3千ドルとみられる。例えば、ディヴィジョンIに属するスポーツチームがあるコロラド州の各大学では、コロラド大学ボルダー校のアメリカン・フットボールの選手で州内出身の学生に3200ドル、コロラド・カレッジでは、女子サッカーと男子ホッケーの選手に、1405ドル(州内の学生)が支払われる予定である。この給付金支払いをするかどうかは各大学に委ねられているが、よいスポーツ選手である学生を勧誘するためには有効な手段であると考えられる。
 
  • Steve Berkowitz. NCAA to distribute $18.9M to help pay cost-of-attendance scholarships. USA Today, 2015/7/20.
  • Rachel Estabrook. Some College Athletes In Colorado Get A (Small) Payday. Colorado Public Radio, 2015/08/15.
  • Jake New. Antitrust Loss for NCAA. Inside Higher Ed, 2014/08/11.

2015年8月13日木曜日

コンピュータ利用教育Aの成果報告

 2015年度前期の「コンピュータ利用教育A」(現代教育コース2年生対象)では、「生み出す教育」をテーマに、各グループごとにアプリ等の制作に取り組みました。以下で、各班の最終プレゼンテーションの様子と、学習の成果を報告します。

 関連記事 「デジタル教科書の可能性」 (2015年5月16日)

もくじ
  • 1班 webページの作成
  • 2班 納豆で天下統一
  • 3班 献立くん
  • 4班 クロススタディ
  • 5班 握手のブラウザアプリ
  • 6班 最近の学生調査
  • 7班 現代教育コース限定のホームページ
  • 8班 信州大学オリジナルLINEスタンプ


1班 webページの作成


 1. プロジェクトの概要

 2. 発表の様子(字幕あり)


 3. 成果物

2班 納豆で天下統一


 1. プロジェクトの概要

 2. 発表の様子(字幕あり)


 3. 成果物
  • 最終プレゼン資料(PDF)

3班 献立くん


 1. プロジェクトの概要

 2. 発表の様子(字幕あり)


 3. 成果物


4班 クロススタディ

1. プロジェクトの概要

 2. 発表の様子(字幕あり)


 3. 成果物

5班 握手のブラウザアプリ


1. プロジェクトの概要

 2. 発表の様子


 3. 成果物
  • 最終プレゼン資料(PDF)

6班 最近の学生調査


 1. プロジェクトの概要

 2. 発表の様子


 3. 成果物
  • 最終プレゼン資料(PDF)
  • YouTube動画


    7班 現代教育コース限定のホームページ


     1. プロジェクトの概要

     2. 発表の様子



    8班 信州大学オリジナルLINEスタンプ


     1. プロジェクトの概要

     2. 発表の様子


     3. 成果物

    2015年8月11日火曜日

    フジテレビホウドウキョクに出演しました

     7月29日(水)21:00ごろから、ネットテレビのフジテレビホウドウキョクの「あしたのコンパス」という番組に電話インタビューで出演しました。7月27日に公表された文部科学省の調査で、苦情対応や報告書への対応を「負担」だと感じる教員が7割に上ったことを受けて、コメントを求められました。

     番組の様子は以下のアーカイブからご覧いただけます。

     http://www.houdoukyoku.jp/pc/archive_play/00042015072901/6/


    (関連記事)
     
     
     


    文字起こし



    古市・石田: こんばんは。

    古市: きょうのピックアップ二つ目はこの学校の先生が異様に忙しいんじゃないかっていうちょっと話題をやっているんですけれども。

    石田: そうです。文科省で今初調査されて7割が負担と感じてるということなんですけれども。

    古市: なんか遅い気もしますけどね。結構Twitterでもきていてやっぱりなんか大変そうだねみたいな意見が多いんですけど、ちょうど石田さんのご両親も小学校の先生ってことでそういうのも大変だって話がいろいろちょっと聞いてきたんですけど。

    石田: はい。そうなんですよ。大変だというそうなんです。ではここで生のご意見ということで伺ってまいりたいと思いますが最初は信州大学教育学部助教でいらっしゃる林寬平さんにお話を伺います。
     
    古市: 林さんこんばんは。よろしくお願い致します。

    林: こんばんは。どうもよろしくお願いします。

    古市: 先生の7割が負担を感じているというニュースなんですけれども、やっぱり先生は結構長時間労働なんですか。


    林: そうですね。去年発表された国際調査では月あたり53.9時間働いているということで世界で一番長く働いているということが明らかになりました

    古市: 世界で一番長いと。ほう。

    林: 世界で一番長いというのは中学校での調査だったわけですけど、今回文部科学省がやった調査では小学校も中学校も、また校長先生や副校長先生なんかも入れて調査をしたということですね。

    古市: なるほど。それによると労働時間がさっき1日12時間とか家に帰ってからも1時間40分仕事があるとかってことを報じられていましたけれども、そんなやっぱり仕事がたくさんあるものなんですね。

    林: そうですね。先ほど番組の中でも仰っていましたが、一般的に「授業3割」というふうに教員の間ではいわれているんです。

    古市: 「授業3割」なるほど。

    林: 子どもと直接向き合って先生っていうふうにイメージされるような授業というのは本当に学校生活の一部でしかなくて、子どもたちが帰った後も職員室でいろんな書類作業をしたりとか会議をしたりとか、それから学校から出ていって研修を受けたり家庭との連絡調整をしたりとか、地域の方と相談をしたりといういろんな業務が入ってきます。

    古市: 先生って昔からこんなに忙しかったんですか。

    林: 昔も忙しいは忙しかったと思うんですけれども労働時間が長くなってきたっていう事実あるんですね。昭和41年の調査では月あたり約8時間の残業時間だったんですけれども最近の調査ではこちら週あたり13.9時間っていうことでかなり増えています。

    古市: なるほど。かなり増えてますね。これは何で増えた時間なんですか。

    林: これは先ほど番組でも言ってたとおり、先生たち昔は学校に授業しにきて授業が終わったら帰るというような形でした。


    古市: なるほど。健全というかなんかそういうものかなと思ってたんで。でも今はそうではないんですね。

    林: 今はそれ以外の仕事がいっぱい次から次へと入ってきている状態だと思いますね。


    古市: なるほど。この残業した分とかその長時間外労働ってこれちゃんとお金はもらえているんですか。

    林: それは一つ問題になっているところで、教員は教職調整額という制度がありまして、こちらは一律で4%給料に上乗せされて支給されているんですけど、これがあることによって一般の人が適用される労働基準法の時間外労働の割増賃金が適用されないことになっています。

    古市: なるほど。てことはいくら働いてもこの4%って額以上はもらえないってことですか。

    林: そうですね。どんなに働いても、学校に残って仕事を熱心にされていても、時間にきっかり帰る先生であっても全く同じ給料しかもらえないということですね。

    古市: しかもそれなんですかそれ。部活とかのお金はあれどうなっているんですか。

    林: 部活なんかもうほぼボランティアで手当っていっても数百円の手当が付くだけでもちろん最低賃金以下ですし、ちょっとお小遣いっていう程度の手当しか出ないということですね。

    古市: 林さんなんかスウェーデンでも教職経験があるとお聞きしたんですけれども。スウェーデンではどんなことをされていたんですか。

    林: スウェーデン人の通う学校で小学校と中学校で体育と算数と英語を教えていました。

    古市: そうなんですね。スウェーデンと日本と比べてみてどうですかね。そういう学校の現場っていうのは。

    林: スウェーデンを含めて世界20数カ国の学校見て回っているんでけれども、これほど熱心に働く先生たちが集まっている国っていうのは日本を置いてほかにないですね。


    古市: なるほど。日本は一番熱心であると。

    林: ええ。授業のためにきて授業が終わったら帰るというスタイルを今もほとんどの国がやっているということと、ほかの国ではあまり教師の専門性が高くないものですから、いってみたらそこら辺の人がたまたま教師をやっているという感じの場合も多いですね。教員不足が深刻ですので教員になりたいっていう人たちが熱意を持って教職になるという仕事ではなくてどちらかというと「教師にでもなるか」あるいは「教師にしかなれない」からっていうふうに教員になるのが普通という感じですね。なのでOECDが今回のように教員の調査をしたというのは各国で教員不足と人材不足っていうのがあって教職の魅力を高めていかないとそれぞれの国でこの先国が持たないということでどうしたら優秀な人材を教職にいざなえるかっていうことを主眼に置いて調査をしているということです。

    古市: なるほど。ただ日本はその点でいうと優秀な人材が教職に集まっているという状況ではきっとあるんですよね。

    林: そうですね。ただ社会のひずみとか本当は学校がやらなくていいのに学校しかできないからという理由でいろんな仕事が学校の中に投げ込まれて、結局先生たちがそれを人がいいのでやってしまうんですけれど、それを続けていくと本当に優秀な人たちが教職を目指さなくなって、特にこのような報道がされることによって教員難しい、大変だよね、ていうふうになってくると次第に優秀な人が入ってこなくなって、そうするとあまり優秀じゃない人の集団になるともっと仕事が大変になってどんどん負のスパイラルに入っていってしまうと。

    古市: これどうしたらいいんですかね。まずやっぱりお金が足りないとか人材が足りないってことはひとつあるんですかね。


    林: そうですね。お金があって教員の数を増やせたらそれが一番早いと思うんですね。今回53.9時間ということは40時間を標準とすると35%多く働いているっていうことになるわけですね。ていうことは本来普通に仕事をしていたら35%教員を増やすかあるいは教員の費用を35%増やして時間外労働にちゃんと報いるかっていうことを考えないといけないんですけれども。

    古市: なるほど。そのちゃんとその超過時間分のそのお給料をちゃんとあげるかもしくはその分先生を増やすかということですね。

    林: そうですね。そのような対応がなされないで例えば外部人材の活用とかボランティアとかで対応しようとしているっていうところがちょっと危ういかなって感じているところなんです。

    古市: 今回はその文科省の報告書ではその提案として外部人材を使いましょうとかボランティアを使いましょうってことが提言されているわけですね。ただそれだとちょっと無理なんじゃないかなってことですよね。

    林: そうですね。注意しないといけないのは長時間勤務。「勤務の時間が長い」ということと「多忙である」ということと「多忙化している」ということと「多忙感がある」ということと「負担感がある」ということはそれぞれ違うことなんですよね。

    古市: なるほど。今回の調査では「負担感がある」って表現でしたっけ。


    林: そうですね。国際調査のほうでは長時間勤務のことが指摘されたわけですけれども今回文科省はそれを受けて先生たちの負担感を調査したということでした。それで負担感を減らすためのガイドラインを出したとのことですけど、内容が結構あべこべになっていて、かみ合っていない面があります。例えば先ほどご紹介あったように国や教育委員会からの調査やアンケートへの対応が非常に負担感があるといっているんですけどこの調査をしているわけですね。

    古市: そうですよね。だからまさに皮肉っていうかそうですよね。この調査のせいで忙しくなっているっていうのにこういう調査をしている。

    林: ええ。今このようなことで文科省がやっていますけれども、実は都道府県も同じような調査をしていますし、各市町村の教育委員会も同じような調査をしているんですね。ということは3回同じような調査をやっているという。

    古市: なんか1回で済まないですかね。


    林: それがなかなか連携が取れていないんですね。そうしようとはしているんですけれど、うまくいってない現状はありますよね。それから例えば保護者地域からの要望苦情への対応に非常に負担感を感じているといいながらこのガイドラインで示されていることはチーム学校ということで地域の人とか専門家とかと連携してそれで対応していきましょうという案が出ているわけですが、それって結構コミュニケーションコストが増えてしまって本来保護者とかからの対応が負担があるといっているのにもっとその道に行ってしまっているような対応策になっていたりとかですね。それからマネジメントを強化するとか研修を強化するっていうことが対応策として書かれているんですけれどももともと負担感が強いと訴えているのはそういうところであって、負担感が強いので、じゃあもっと研修を強化しましょうみたいな報告書になっていまして、これは根本的に認識がおかしいんじゃないかと思うんですね。

    古市: こういう報告書とか書く文科省の方ってあんまり教職員の現場とか知らないんですかね。


    林: 多分すごく現場に長く居る方が多くて。それでよく分かってらっしゃる方が多いと思うんですけれども、計画的な対応という意味では現場レベルの目線ではちょっと難しいところがあると思うんですね。というのは日本の国内全部で長時間勤務っていうのが問題になっているわけですよね。ある学校だけで長時間勤務が問題になっているのであればその学校で対応すればいいと思うし、ほかに例えば長時間勤務がない教育委員会があったとしたらその教育委員会のいいところを勉強すればいいと思うんですけれども、これ全国で問題になっていることですので国の制度が問題だということですよね。なので誰かの改善とか頑張ろうという努力とかそういうもので改善しようというのはもっと頑張ろうといっているだけの話であって。


    古市: そうか。本当は制度を抜本的に変えなきゃいけないにもかかわらずまたその現場の努力でなんとかしようとしているっていう今までのこの負のスパイラルの繰り返しのような調査と報告書になっちゃっているんですかね。

    林: そうですね。それでこれまでもこの教職調整額を増やそうとかこの残業に対してきちんと報いようとか仕事の時間を減らせるように何とか系統的に変更しようという議論は常に行われてきたんですけれども、具体的な制度変更には至っていないんですね。

    古市: なるほど。これってやっぱり財務省と文科省の折衝の話なのかもしれないですけどやっぱりあんまり教育にちょっとお金掛けられないってことなんですかね。

    林: そうですね。また先生方個人の努力で何とかしてしまっているように見えているっていうのもまたちょっと弱いところではありますね。

    古市: 確かに日本社会自体が学校に限らずにやっぱり何とか個人の努力で何とかしてしまう。短期的にはうまくいくんだけれども結果的にでもみんなが疲弊してしまうってことは結構どこにでも起こっていることですもんね。

    林: そうですね。それで私の専門の国際比較からいいますと教員に長時間労働を課す国というのはどこの国も合法的かつ財政負担なく働かせる制度があるということで長時間労働を減らしたいというのであればこの長時間労働を違法化するということと財政負担を設けるということの二つを動かせば長時間労働はなくなると思うんですね。

    古市: 確かにそれって別に本当は法律的な問題だけの話ですもんね本来は。

    林: そうですね。ただ今と同じ仕事量で労働時間だけ減らされて規制されるようになったとするとより多忙化するわけですよね。なので時間が長いということと多忙であるということと負担感があるということはそれぞれ違った対処が必要になってくるっていうことですね。

    古市: モデルになるいい国とか制度ってなんかありますかね。

    林: モデルというと難しいですけどもある意味で日本はこの先生たちの非常に献身的な教育への取り組み質の高い教員ということをもって日本のすばらしい高学力、今OECDの加盟国では世界一なんですけれども。

    古市: そうですよね。一時期なんかすごい順位下がったとかって話題になっていましたけど実は今また1位というかすごい成績いいんですよね。

    林: そうですね。その好成績はそういう先生方の献身的な取り組みによって支えられている。だからほかの国は日本をモデルとして見ているわけですね。また部活動なんかがとても批判されてブラックだなんていわれることもありますけど、今特に非認知的スキルといわれる例えば豊かな性格とかテストで測れるものではなくて人生を送る上でその後だんだん生きてくるようなものについてもあらためて評価されるようになってきているわけですけど、それが部活動とかが非常に強みになっているんじゃないかというような指摘もありまして。一方で日本の国内から見るとそれが問題だっていわれますけれども海外から見るとそれが日本の強みだっていうふうにいわれているっていう面があるんですね。

    古市: なるほど。じゃあいいところを残したまま先生の労働環境がもうちょっと改善されたらいいですよね。


    林: そうですね。

    古市: そのためには多分本当制度レベルちゃんと変えないといけないんでしょうけれどもどうですかなんかすぐに変わりそうですか。

    林: いやあ、これはなかなか難しいと思いますね。教員としてもいろんな教員がおりますし例えば部活動がやりたくて教員になったっていう人も結構多いと思いますね。熱心に子どもと向き合う先生たちの多くは部活動をやりたくて教員になったっていう人が居ると思うんですけど、そういう人たちが居るから自分たちも長時間労働を強いられるんだっていうふうに傍で見ている教員も居ると思うんですね。だから一律に対応しようとすると必ず反発が出てきますし、誰しも学校という世界を経験しているのでいろんな意見がいろんなところから飛び交ってくると。

    古市: 確かに。

    林: だから「えいやっ‼」とやらないと動かないんですけども、なかなかできない環境は教育の中にはあると思いますね。

    古市: なるほど。分かりました。どうも林さんお忙しい中ありがとうございました。


    林: ありがとうございました。失礼致します。

    古市: というわけで林寬平さんにお話を聞いてきたんですけれども、でも確かにそうですよね。一個の学校だけがこういう問題に苦しんでいるんだったらそこの学校に対してこういうふうにやってくださいって言えば済むけれども全部の学校が長時間労働だったりとかいろんな問題がある中でこうやってくれっていってやるのはでも無理で本当制度を変えなきゃいけないにもかかわらずそうはなってないっていうのはまさにそのとおりですよね。

    教育動向: 大統領選とコモン・コア

     アメリカの教育事情 (久原みな子)

     2016年秋の大統領選挙に向け、すでに出馬を決めた各候補者がそれぞれの政策・理念を打ち出し選挙活動を開始している。教育政策においては、オバマ政権下で導入され始めた、全米共通学力基準コモン・コアとその到達度を測る統一テストの是非が争点のひとつだ。
     
     コモン・コアと統一テストの導入については、各地で教師・生徒・親たちによる反対運動が続いており、また州の足並みも不揃いで、民主党内、共和党内ともに意見が割れている。8月6日に行われた、共和党からの候補者上位10名による討論会では、コモン・コア以外の教育政策問題はほぼ取り上げられなかったが、長くコモン・コアを支持してきたジェブ・ブッシュと、断固とした反対派のマルコ・ルビオがその意見の違いを改めて明らかにした。ブッシュは、連邦政府が州の権限である教育問題に干渉することにあくまで反対であることを明らかにした上で、高い基準を維持することの必要性を強調。連邦教育省の廃止までも主張しているルビオは、カリキュラム改革の必要性を主張しながらも、コモン・コアが連邦政府の過干渉であるという意見を繰り返した。
     
     ジェブ・ブッシュとジョン・ケーシック以外の主要候補者は、共和党の方針と違わないコモン・コア反対派となっている。スコット・ウォーカー、クリス・クリスティーらは、当初コモン・コアを支持していたのにもかかわらず、後に大統領選を見据えてか反対派に転じ、一貫性のない言動で批判を浴びていた。
     
    • Lauren Camera. “Common Core Is Premier Education Issue in GOP Presidential Debate.” Education Week, 2015/8/6.
    • Allie Gross. “How the GOP Candidates Are Flailing on Common Core. ”Mother Jones, 2015/7/6.
    • Lyndsey Layton. “Chris Christie, a onetime booster, now wants to dump the Common Core.” Washington Post, 2015/5/28.
    • Valerie Strauss. “Tea partiers and liberals tell Gov. Scott Walker: ‘No more games on Common Core’.” Washington Post, 2015/7/7.

    2015年7月28日火曜日

    教育動向: 夏の学習喪失(Summer Learning Loss)

    アメリカの教育動向 (久原みな子) 

    米国公立学校の多くが約3ヶ月にわたる長い夏休みに入り、「夏の学習喪失」が懸念されている。学校暦の終わりとともに始まる夏休みの間には、宿題もなく、特に親たちが様々なサマー・キャンプ、サマー・プログラムを事前に手配したり、勉強やそれ以外の芸術・スポーツなどに関わる経験をさせる努力をしない限り、子どもたちが学校のない間に学習内容を忘れてしまう「夏の学習喪失」が起こる。これについては、1906年の ウィリアム・ホワイトによる研究に始まる長い調査研究の歴史があるが、総じて、子どもたちが夏の終わりには夏休み前よりも同じテストで低い成績になること、また夏の間に何も勉強に関わらなかった場合、算数ではおよそ2ヶ月分の学習を喪失することが指摘されている。この「喪失」は、経済的な理由でサマー・キャンプなどを手配できない低所得世帯の子どもたちにとってはより大きく、逆に夏ごとに新しい経験や学習を積んでゆく富裕層の子どもたちとの間の格差は広がっていくことになる。また、この「学習の喪失」が巨額の経済的損失に換算されるという報告もある。

     米国の生徒たちが国際的な学力テストで振るわない成績であることもあり、オバマ大統領およびダンカン教育長官は、学期の長さを長くし、夏休みを短くしようとする動きを支持している。また、夏休みの始まる6月中には「夏の学習の日(Summer Learning Day)」を打ち上げるなど、学習喪失に歯止めをかけることの重要さを広めようとしてはいるが、全米の8割を超える学校では、依然として長い夏休みが取られているのが現状だ。

     公立学校を拠点とするサマー・プログラムがある一方、地元のコミュニティ・センターや図書館、大学、団体、研究所、企業などが、夏の間子どもたちのための様々なプログラムを展開している。特に多くの公立図書館は、地元企業や団体との協賛で、夏休みの読書プログラムを用意している。これは、例えば、一定の冊数や時間を読書すると賞品がもらえるといったものや、特定のテーマの図書リスト(例えばヒーローもの)をもとにみなで同じ本を読んだりするプログラムもある。読書のみならず、映画や漫画、演劇、クラフトなどに関わるイベントを展開したりと学齢期の子どもたちが無料で楽しめる工夫をこらしている。

    (写真:米国でも人気のKumon(公文式)教室の看板)