2017年12月8日金曜日

研究紹介: やりたいこと”がない人はなぜ肩身の狭い思いをするのか(卒業研究)

研究紹介

森下結衣『就職活動における志望動機の社会的機能
―企業と学生の”やりたいこと”理解に着目して―』(卒業論文)


林 寛平(信州大学)

 長い就職氷河期を経て、近年は大卒の就職率も改善してきた。しかし、就職活動の早期化・長期化に伴う学業への悪影響や新卒社員の高い離職率が問題となり、企業と学生との間のミスマッチが顕在化している。新卒社員の離職に関しては、世代論による若者批判が根強くある一方で、「やる気搾取」(阿部2006)のような企業倫理や社会制度に対する批判も見られる。また、企業側は「産業構造や社会の変化に主体的に対応し、生涯現役で活躍できる人材の育成」(経済団体連合会2016)を求めているのに対して、経済協力開発機構(OECD)の成人力調査(PIAAC)では、日本の成人はオーバースペックで、高い能力を生かせるような仕事が不足している可能性があり、産業構造の転換が課題として指摘されている(松下2013)。
 「人物重視」と言われ、企業はエントリーシートや面接で学生に「やりたいこと」(志望動機等を含む)を尋ね、学生の個性や特徴を把握しようと試みる。一方で、学生たちは似通ったリクルートスーツを身にまとい、髪型を就職活動用に整え、一様な受け答えを練習する。公益財団法人日本生産性本部の調査によると、「じぶんには仕事を通じてかなえたい「夢」がある」かとの問いに対して、肯定的に回答した新入社員の割合は2009年の72.9%をピークに、2015年には58.9%にまで急減している(生産性労働情報センター2015)。本研究はこのような企業と学生の思惑の違いに着目し、「やりたいこと」を問うことが社会的にどのような機能を果たしているのか明らかにするために、関連資料の分析と採用者および被採用者へのインタビュー調査を行った。

45%以上の企業が「やりたいこと」を尋ねている

 まず、就職活動中に企業が学生の「やりたいこと」をどの程度知りたがっているのかを調べるために、東京証券取引所に上場している代表的な企業(日程225)のうち、108社のエントリーシートを入手した。このうち49社(約45%)の企業が「志望動機」を記入する欄を設けていた。例えば、「生保業界を選んだ理由と、その中で当社を選んだ理由を記載してください」(第一生命保険株式会社)「実現の場としてHondaを志望する理由を記入してください」(本田技研工業)「あなたがキッコーマンに入社して、「やりたい仕事」を具体的に教えてください」(キッコーマン)といったような設問が見られた。ここでは、「やりたいこと」の内容が評価されるのか、あるいは「やりたいこと」があることをうまくアピールできることが評価されるのかは明確ではない。そこで、企業の人事担当者3人と就職活動を経験した社会人3人にインタビューを行った。

企業の人事担当者へのインタビューから

 エントリーシートの分析から、第二次産業に属する企業は志望動機を尋ねる割合が特に多かったことから、第二次産業2社の人事担当者にインタビューを行った。「今の就活のシステム的にも、聞いても意味がないと思っているのでどうでもいい。『志望動機』の記述において優劣などはない。また、大して求めていないのに、『志望動機』を書くという負荷が大きすぎるということが問題だと思う」という率直な意見もあった。一方で、企業が「志望動機」を尋ねる動機としては、以下の2点挙げられた。第一に、会社を知ったきっかけや応募に至った理由を知りたいという動機、第二に、入社する意思の確認である。これらは、オンラインでエントリーできるようになり、学生は多数の企業の中から応募先を選び、企業は膨大の応募の中から意志ある応募者を選ぶという仕組みによって生じているコストだといえよう。

就職活動経験者へのインタビューから

 10社に応募し、そのうち1社から内定を得たXさんは、「やりたいことがなかったとしても、会社のホームページを見て一番やりたいことを書いた」と述べ、企業が「志望動機」を問う動機を「お約束事だと思う」と形式的なやり取りだと考えていた。「集団面接でも皆言葉は異なっても、大学で培ったものを生かして御社に貢献したいといっているだけだった。また、企業も『志望動機』問い詰めてくることはなかった。『志望動機』は型を作って企業のホームページを見てカメレオンのように色を変えれば作成できるものでしかなかった」と述べている。
 一方、5社に応募し、そのうち3社から内定を得たYさんは、「『わたしはこんな人間です』ということが伝わるように書いた。決まりきった定型文は書かないで、素直に正直に書いた」と述べている。
 また、40社に応募し、そのうち2社から内定を得たZさんは、「やりたいことなんてみんなないだろうけど、どれだけ会社の意向や方針に沿ってやりたいことを言えるのかというところを見ていると思う」と述べている。

 以上の文献調査とインタビューから、森下は以下3つの考察を行った。

考察1 社会で求める”やりたいこと”と個人の”やりたいこと”は違う

 社会では”やりたいこと”を問われる機会が多くあり、たびたび”やりたいこと”の表出が求められる。しかし、就職活動の場面では、暗黙のうちにやるべきことと”やりたいこと”の整合が求められる。企業の期待と就活生の希望の間にはギャップがあり、その調整が一方的に就活生に押し付けられている。

考察2 “やりたいこと”を表明する場面には権力関係がある

社会(企業)と個人(就活生)の間の”やりたいこと”の不一致を柔軟に調整できるという素質は、規律権力に従順であることの現れでもある。重田(2016)が指摘するように、規律権力は「人間が潜在的に持つ力を最大限に引き出そうとするのだが、それと同時に従順さと制御しやすさを高めるという特徴を持」ち、そのような特徴を持った人間は「身体の細部に至るまで生産性を高める訓練を受け、その意味では高い能力を身に着ける。だがそれと同時に、命令への服従、秩序への半ば無思考の従属を受け入れている」。
 子どもが大人に対して「将来の夢」や”やりたいこと”尋ねたら、違和感を覚えるだろう。これは単に大人がすでに自己実現をしていたり、余命が短いために選択可能性が乏かったりということに起因するだけではなく、”やりたいこと”を表面する場面には権力関係が生じているということを示している。企業が学生に、社会が人々に、規律権力に適応できるかどうかを見分ける術として、”やりたいこと”を問うているのではないか。

考察3 相互承認のための”やりたいこと”

学生Yはインタビューの中で、代替のきかない自分らしさを述べることで、自分はこの会社に適していることを示し、それに対して会社に「そんなあなたが欲しい」と言わせることで学生はそこから安心感を得ていると答えている。一方で企業もやりたいことを問い、「御社でどうしても働きたい」という気持ちを受け取ることで安心感を得ている。このような相互承認の関係を作ることで、お互いに価値を与え、マッチングが合理的に行われているという虚構を補強しているのではないか。

“やりたいこと”がない人はなぜ肩身の狭い思いをするのか

 森下は「総合考察」として、”やりたいこと”のない人はなぜ肩身の狭い思いをするのか、という問いに自分なりの回答を用意している。
 “やりたいこと”の有無が議論として成り立つには、”やりたいこと”のある人とない人の存在が必要になる。全員が当然に”やりたいこと”を持っているとしたら、そもそも”やりたいこと”を持つことに価値が置かれない。また、”やりたいこと”のある人であふれている社会を理想として据えても、原理的に成立し得ない。現実には、”やりたいこと”のある人ない人もどちらもいるからこそ、社会はまわっているのである。
 インタビュー調査の結果からも明らかになったように、”やりたいこと”のないという人は存在し、そのような人々は自身を否定的に捉えている。社会に、親に、先生に「自分のやりたいことをやりなさい」と言われるが、就活場面で”やりたいこと”を器用に表出できる人は、経済的な価値があると考えられている。
 しかし、就活生がかりそめの”やりたいこと”を表明し、企業もその意図を了解しながら受容しているとすると、”やりたいこと”がない人が肩身の狭い思いをしているのは”やりたいことがない”ためではなく、企業が期待するような”やりたいこと”を供出できないために、社会との間での相互承認関係が結べず、そのことによって不安が残ってしまうためではないか、と考察した。

  • 阿部真大(2006)『搾取される若者たち―バイク便ライダーは見た!』集英社
  • 松下佳代(2013) NHKニュース「大人の学力の調査で日本首位」(2013年10月8日)
  • 一般財団法人日本経済団体連合会(2016)『今後の教育改革に関する基本的考え方―第3期教育振興基本計画の策定に向けて―』
  • 生産性労働情報センター(編)(2015)『平成27年度新入社員「働くことの意識」調査』
  • 重田園江(2011)『ミシェル・フーコー―近代を裏から読む』ちくま新書
  • 村上龍、はまのゆか(2003)『13歳のハローワーク』幻冬舎
  • 久木元真吾(2003)「『やりたいこと』という論理:フリーターの語りとその意図せざる帰結」社会学研究会(編)『ソシオロジ48』潮人社
  • 鵜飼洋一郎(2007)「企業が煽る『やりたいこと』-就職活動における自己分析の検討から」大阪大学人間科学部社会学・人間学・人類学研究室(編)『年報人間科学28』
  • 太郎丸博、吉田宗(2007)「若者の求職期間と意識の関係-『やりたいこと』は内定率に影響するか」 数理社会学会(編)『理論と方法22』
  • 妹尾麻美(2013)「新規大卒就職活動において「やりたいこと」は内定取得に必要か?」社会学研究会(編)『ソシオロジ59』潮人社
  • 溝上慎一(2004)『現代大学生論 ユニバーシティ・ブルーの風に揺れる』NHKブックス
  • 文部科学省(2011)『小学校キャリア教育の手引き』
  • ジグムント・バウマン(著),酒井邦秀(訳)(2014)『リキッド・モダニティを読みとく 液状化した現代社会からの44通の手紙』ちくま学芸文庫


2017年11月22日水曜日

EDU-JPN: Corporal Punishment in an Aichi Prefectural Elementary School

Education in Japan (Natalie Collor)

Recently, at an elementary school in Toyohashi City, Aichi Prefecture, a male homeroom teacher in his forties was found guilty of physically harming five of his students during a math class. Reports say that the incident occurred while the class was checking answers to an assignment. When many students did not understand the material in the way the teacher explained, he lost his temper and began physically harming his students. He hit a few boys on their heads with rulers. He even smacked one girl’s head against the blackboard. Since the day of this incident, this female student has not been able to return to school. The guilty teacher has publicly apologized for his actions and is currently taking an indefinite leave of absence. 

This incident, however, was not the first time this teacher has been accused of physically harming his students. Two years ago, he pushed a student down, and the student suffered a neck and shoulder injury. Perhaps the teacher was able to keep his job at this time because the boy’s parents and school administrators viewed this incident as an accident, not corporal punishment. 

Investigations related to this violent incident are ongoing, and the Toyohashi City Board of Education is slowly releasing information regarding the events that occurred. Area parents and school employees are no doubt on edge about the future of this teacher’s career in public schools. 

2017年10月17日火曜日

研究紹介: 学校選択制による「平等を目指す競争」の分析

林寛平「スウェーデンにおける学校選択制による学校間成績差抑制モデルの分析-ナッカ市におけるSALSAを活用した予算配分を事例に-」, 日本教育行政学会(編)『教育行政学研究と教育行政改革の軌跡と展望』, 2016, pp.174-179.


本文は機関リポジトリからダウンロードできます。

キーワード:学校選択制、教育費バウチャー制、脱集権化改革、平等を目指す競争

 かつて高度に集権化された福祉国家のモデルとみられていたスウェーデンは、1980年代以降の改革を経て脱集権化した国に様変わりした。教育における脱集権化は、学校の自律性を高めることで現場の能力が増し、学習の質が向上するという期待によって推進され(Zajda 2006)、とりわけ規則、財政、権限の側面に大きな変化が見られた(Pierre 2010)。一方、改革の動機には行政運営の効率化もあり、公的部門の民営化と支出削減が並行して進められた (Montin 1992)。この過程において、義務教育費が1990年に国からコミューン(基礎自治体)に移譲され、1992年には学校選択制が導入された。

 これらの改革は教育の「市場化」として分析されることが多い (Björklund et al. 2005)。「市場化」は競争と淘汰を前提とするため、格差拡大と質の低下が危惧されている(Bunar & Sernhede 2013)。学校教育庁の分析でも学校間成績差の拡大が明らかになっている(Skolverket 2012)。一方、国際調査では相対的に平等で公正な教育制度を有すると評価されている(OECD 2015)。また、Kallstenius(2010)は学校選択制により移民生徒がいわゆる「中流スウェーデン人」の集住地区に越境通学することで、学校が多文化になり、統合が促進される面もあると指摘している。現状では、学校選択制が成績差や分離に与える影響についてはコンセンサスが得られていない。

 本稿では、「市場化」の中で競争原理を用いながら平等を促進するナッカ市(Nacka kommun)の事例を検討する。ナッカ市の教育費配分方式は学校選択制を用いて学校間の成績差を抑制するモデルである。市は予算配分を生徒の社会的背景に応じて重みづけすることで、学校の生徒獲得行動を統制している。この安定化効果を通じて「平等を目指す競争」が生じることを期待している。本研究は、2006年から2015年にかけて学校教育庁、学校監査庁、地方自治体組合、ナッカ市、ナッカ市立基礎学校で行った聞き取り調査とナッカ市議会の議事資料に基づいている。

研究紹介: 教育政策のグローバル化とヘゲモニー

林寛平「グローバル教育政策市場を通じた『教育のヘゲモニー』の形成―教育研究所の対外戦略をめぐる構造的問題の分析―」, 日本教育行政学会(編)『日本教育行政学会年報42 教育財政をめぐる問題群』, 2016, pp.147-163, 303-304.


本文は機関リポジトリからダウンロードできます。

キーワード: グローバル教育政策市場、教育政策コンサルティング、大規模国際アセスメント、国立教育研究所、教育のヘゲモニー

 グローバル化によって、国境を越えて教育政策が売買され、その市場に国家がアクターとして参入している。本研究は、グローバル教育政策市場の実態に対する構造的な問題を指摘することを目的とする。

 新自由主義的改革を批判する研究者たちは、グローバル化を国民国家の後退と捉えてきた。しかし、一連の変化は国家の後退を招いただけではなく、国家に新しい立場を与え、逆に役割の拡大をもたらしている面もある。Ball(2012)は民間セクターが教育分野に参入したことで政治過程と政治コミュニティの様態が変化し、ネットワークガバナンスの新しい形が組成したと指摘し、これらを広く「グローバルな教育政策」と呼んでいる(Rizvi & Lingard, 2010参照)。本稿では、「グローバルな教育政策」が教員研修の請負やコンサルティング事業等を通じて流通する「グローバル教育政策市場」に先進国の政府系教育研究機関がアクターとして積極的に参入していることを指摘する。

 国家の国際市場での具体的な活動を検討するために、4ヵ国の教育研究所の事例を取り上げる。オーストラリア教育研究所(ACER)、オランダ政府教育評価機構(Cito)、ドイツ国際教育研究所(DIPF)は大規模アセスメントに強みを持ち、国際市場の先導役を担っており、PISAの運営でも中心的な役割を担っている。PISAで高得点を挙げたシンガポールでは、国立教育研究所(NIE)とその民間部門のNIE International Pte. Ltd(NIEI)が中央政府との緊密な連携の下で教育コンサルティングを行っている。

 4ヵ国の事例から、「グローバル教育政策市場」が勃興している実態が明らかになった。輸出国側と輸入国側の関係を見ると、学力の優位な国が教育政策上のノウハウを提供する見返りとして、経済的に不利な国に対価を要求する構造になっており、教育成果と経済資源の交換が行われている。この交換は、一面では、市場メカニズムに従うことで、諸アクター間が需給関係に基づく合理的な選択を行い、合意形成がなされることが期待される。しかし、輸入国の多くはOECD非加盟国であることからPISA Governing Boardに参加しておらず、アセスメントの枠組み作りやコンピテンシーの選択と定義、教育成果の価値付け等に影響を与えることができない。すなわち、教育成果が輸出国側によって一方的に値付けされており、需給調整のルールが不公正な状態になっている。これによって、すでに有利な立場にある国の優位がさらに固定的になる恐れがある。

 この非対称な関係は、Gramsci(1975)が指摘する「ヘゲモニー」の一形態といえる。さらに、先進国から途上国への国際的なコンサルティングサービスの提供を通じて、「教育におけるヘゲモニー」が生じている。



Kampei HAYASHI, ‘Educational Hegemony’ in the Global Education Policy Market -An Analysis of the Outbound Strategy Adopted by Four National Education Research Institutes, Bulletin of the Japan Educational Administration Society, No. 42, 2016, pp.147-163, 303-304.


Key Words: Global Education Policy Market, Education Policy Consulting, Large-scale International Assessment, Government-affiliated Educational Research Institutes, Educational Hegemony

The current scenario in the educational field has seen major changes impacted by globalization in which educational policies are bought and sold across national borders with nation states joining this market as actors. The purpose of this study is to point out the structural problems inherent in the reality of the global education policy market. 

Researchers who criticize neoliberal reform consider globalization as a back down of nation states. However, changes through globalization have brought forth a new position for nation states in which they have partly expanded their functions. Ball (2012) points out that ever since the private sector made its foray in the educational field, the mode of political processes and community has changed, and a new form of ‘network governance’ has emerged. He termed this as the ‘global education policy’ (see also Rizvi & Lingard, 2010). The focus of this research is on the government-affiliated educational research institutes of developed countries that are active participants in this ‘global education policy market’ as actors by contracting work in teacher training and consulting. 

Four educational research institutes were chosen to study the concrete activities of the nation state in the international market. The Australian Council for Educational Research (ACER), Central Institute for Test Development (Cito), and the German Institute for International Education Research (DIPF) emerged as the leading institutions that have exploited the international market as per a large-scale assessment, and they play a central role in the operation of PISA. In Singapore, which exhibited a high score in PISA, the National Institute of Education (NIE) and its private arm, NIE International Pte Lte (NIEI), carry out educational consulting in close coordination with the central government. 

Through these four cases, it is apparent that a ‘global education policy market’ is on the rise. The trend of these countries’ activities is considered as a positive contribution on their part in offering their know-how. The relationship between the countries offering the expertise and the countries at a disadvantage is based on the exchange of educational performance and economic resources; countries that have the advantages of educational performance impart their expertise in educational policy while the economically disadvantaged nations pay for this know-how by using their economic resources. This exchange is understood superficially as following the market mechanism. The choice is made by the rational supply-demand relationship and both sides are expected to agree on fair terms. However, most of the countries seeking this expertise in the field of education are non-members of the OECD, and they have no seats on the PISA Governing Board. Therefore, they have no influence on the selection, definition, value setting, and frameworks of the educational performance assessment. The educational performance is unilaterally priced by the countries offering their knowledge in the field and therefore the rules for balancing supply and demand are biased. Hence, this kind of trade can possibly result in the status quo being maintained, wherein the privileged countries continue to be at an advantage and dominate while the disadvantaged remain submissive. 

This asymmetric relationship is a kind of ‘Hegemony’ (Gramsci, 1975). Furthermore, ‘Educational Hegemony’ has come into being through the supply of consulting services from developed countries to developing countries.

日本教育行政学会より研究奨励賞を受賞しました

2016年に日本教育行政学会の年報に掲載された論文に対して、日本教育行政学会から研究奨励賞が授与されました。

授賞対象は以下の論文です。

林寛平「グローバル教育政策市場を通じた『教育のヘゲモニー』の形成―教育研究所の対外戦略をめぐる構造的問題の分析―」, 日本教育行政学会(編)『日本教育行政学会年報42 教育財政をめぐる問題群』, 2016, pp.147-163, 303-304.

要旨は以下からご覧いただけます。
https://shinshuedu.blogspot.jp/2017/10/blog-post_93.html

本文は機関リポジトリからダウンロードできます。

授賞式は10月14日に日本女子大学で行われ、学会長から表彰状をいただきました。




2017年10月16日月曜日

EDU-JPN: Background of the success of Japanese PISA result compare to U.S. -Part III

Education in Japan (Natalie Collor)

Social status


While the concept that higher income directly relates to higher academic success is one held throughout the world, the degree to which it holds true varies across the world. The PISA survey also includes data on performance as it relates to students’ socioeconomic status and disproves this general idea in many countries. The socioeconomic makeups of Japan and the U.S. are different, so it is important to interpret the results of PISA individually.

Japan has an above-average score in science performance and equity in education. The strength of this relationship is below average, which means performance in science isn’t essentially a result of one’s social status. In the U.S., however, science performance was above average, but the nation’s equality in education was below average. This implies that class and status largely affect one’s ability to perform well in science. Funding limitations and staff shortages are very common in some areas of the U.S., and, as shown by the results of the PISA, science aptitude suffers greatly when students lack the support and materials necessary to study. A key takeaway for the U.S. is to increase funding for science teachers and materials in areas with lower incomes. Students in Japan, on the other hand, seem to be benefitting from access to similar amounts of educational support and materials.

Overall Educational Practices

Students in both the U.S. and Japan did better than average on all three sections of the PISA exam. A closer look at the individual section results, students’ motivations for each subject, and gender discrepancies provides further information on the educational methods used and their efficacy as shown by the students’ results on the PISA survey. Based on these results, it may be easy to assume Japanese educational practices are more effective or better than those in the U.S., however, it is also important to realize PISA is just one of many standardized tests meant to measure intelligence and efficacy of instruction. The public must also remember there are other ways in which students and educational techniques can be evaluated.



2017年10月11日水曜日

教育動向:コロンブス・デーか、先住民の日か



 アメリカの教育動向(久原みな子)

米国では、10月の第2月曜日は連邦の定める祝日「コロンブス・デー」となっている。これは、アメリカ大陸を「発見」したとされるクリストファー・コロンブスの上陸を記念して始まったものだが、ネイティブ・アメリカンの団体らを中心に、コロンブスはネイティブ・アメリカンの虐殺、奴隷制、植民地化の始まりを象徴するものとして、長くこの祝日に対する反対運動が行われてきた。銀行や郵便局などがこれまで通り休業する一方、近年、多くの州や都市、学区が「先住民の日Indigenous People's Day」とこの日の名称を変え、学校も登校日とし、ネイティブ・アメリカンの遺産と歴史をたたえ、学ぶ日として新たに認定し始めている。今年になってロス・アンジェルスなどの都市が新たに「先住民の日」の採用を決定したほか、例えばニューヨーク州シラキューズの教育員会では、今週「先住民の日」採用の可否を問う投票が行われる。また、11月は、ネイティヴ・アメリカンの文化や歴史、問題を認識しさまざまなプログラムをとおして学ぶことを推奨するNative American Heritage Monthネイティヴ・アメリカンの遺産月間となっている。

Leah Shafer and Bari Walsh. “The Columbus Day Problem.” Usable Knowledge (Harvard Graduate School of Education), 2017/10/5.





2017年10月9日月曜日

EDU-JPN:Background of the success of Japanese PISA result compare to U.S -Part II

Education in Japan (Natalie Collor)

Discussion of PISA results

In the previous article, the most recent PISA results for the United States and Japan were given and compared in a general sense. Japan has much high scores than the U.S. on all three subject areas—science, math, and reading—of the PISA survey, and is one of the highest-scoring countries overall. A closer look at the results in each subject tells more about each country’s educational methods and how students feel toward the tested subjects. The first part of this article will provide a more detailed discussion of the results based on gender, while the second part will focus on what the socioeconomic status of students says about their performance on the PISA survey. Both parts will also speculate what the discrepancies in student performance say about education practices in both countries.

Gender

Gender differences are apparent in the PISA results of both countries. In the science and mathematics sections of the PISA test, boys scored higher than girls on average. When these students were asked about what field they expect to work in, a higher percentage of boys expected to be working in a science-related field than girls. The totals were 19% of Japanese boys vs. 18% of Japanese girls and 25% of American boys vs. 24% of American girls. Surprisingly, even though Japan’s average score in science is quite higher than that of the U.S., more students in the U.S. picture themselves in a science-related job later in life. This result suggests that students in the U.S. experience slightly more enjoyment in science-related activities, and further research may need to be done to figure out what exactly is the source of this difference.

A similar performance gap between girls and boys occurs in the math section of the test, but girls outperform boys in the reading section of the test in both countries. Although the performance gap is much less in the reading section, it is interesting that there is a flip in gender dominance when a non-scientific field is examined.




2017年10月2日月曜日

EDU-JPN: Background of the success of Japanese PISA result compare to U.S. -Part I

Education in Japan (Natalie Collor)

An Introduction to PISA

PISA is the acronym used by the Program for International Student Assessment, an organization that surveys education systems across the globe by testing hundreds of thousands of students in over seventy countries. PISA creates a two-hour test in the areas of science, math, and reading for students around the age of fifteen and administers the test to select schools and regions every three years to track educational developments worldwide. The results of the PISA surveys can be very useful in both domestic and international education spheres.

In addition to administering surveys to evaluate student performance in these three areas, PISA is also very involved in improving the state of education in low-income countries by helping students become better learners and teachers becoming better instructors.

Results of the 2015 PISA Survey

The first PISA survey was administered in 2000, and the most recent PISA survey was given in 2015. Countless interesting analyses are possible when comparing the results of all the countries participating in this survey; however, the current essay is concerned with the results of Japan compared to those of the United States. Although these two countries may have a lot in common economically and politically, the results of the PISA survey would suggest these two countries have significant differences in educational practices.

The results of the most recent PISA survey suggest Japan’s educational system is more suited to preparing students for tests and surveys like PISA, as Japanese students scored higher on average than American students in all three areas tested. Japan is one of the leading countries in science—trailing only Singapore—and has been for many iterations of the survey. Moreover, Japan has outscored the U.S. in all three areas tested on PISA surveys for many years.

2017年9月29日金曜日

国際シンポジウム「国際アセスメント時代における教育行政」のお知らせ

日本教育行政学会と韓国教育行政学会が隔年で主催する国際シンポジウムが以下の通り開催されます。シンポジウムは公開で行われますので、学会員でなくても申込不要・無料でご参加いただけます。ご関心のある方はぜひご参加ください。

※資料の残部があります。ご希望の方は実費にて郵送しますので、メールで送付先をお知らせください。(配布終了)

国際シンポジウム「国際アセスメント時代における教育行政」

日時: 2017年10月14日(土) 13:00~16:45

場所: 日本女子大学 目白キャンパス 香雪館401教室

趣旨: 近年、国際アセスメント、特にPISAが多くの国・地域の教育政策、教育改革に少なからぬ影響を与えている。「学力」の国際比較における優位性を獲得あるいは確保するために、教育内容のスタンダード化やテストとアカウンタビリティ政策を重視するようになった国・地域が多いが、対応の仕方は一様ではない。また、ある国や地域で功を奏したとされる改革や政策が外国に「輸出」されるという現象も現れている。本シンポジウムでは、このように児童・生徒の「学力」のみならず、各国及び地域の教育政策の効果も比較対象となる「国際アセスメント時代」の教育行政の課題をテーマに検討を行う。

報告者: 金 龍      清州教育大学 (韓国)
             Bob Lingard    The University of Queensland (オーストラリア)
             Eva Forsberg    Uppsala University (スウェーデン)(登壇なし)
             Daniel Pettersson    University of Gävle (スウェーデン)
             澤野 由紀子    聖心女子大学
司会:    小島 優生   獨協大学
ファシリテーター: 林 寛平    信州大学

シンポジウムの詳細・発表資料等については以下のリンクをご覧ください。
http://www.jeas.jp/act/conf/

また、翌日(10月15)には、一部報告者を招いて小規模な研究会を開催します。併せてご参加ください。(こちらは、10月6日までにお申込が必要です)
http://nordiskutbildning.blogspot.jp/2017/09/201710.html

【報告者略歴】
Bob Lingard: クイーンズランド大学教授、社会学的視点から教育政策を研究し、Global Education Policyやテスト政策について、多くの論文・著作を発表。主な近著に、Globalizing Educational Accountabilities (Routledge, 2016), The International Handbook of Global Education Policy (Wiley, 2016), National Testing in Schools: An Australian Assessment (Routledge, 2016)など

Eva Forsberg: ウプサラ大学教授、数々の研究プロジェクトのリーダーを歴任する中で、教育ガバナンスやアセスメント文化の研究を進めている。主な近著に、Mølstad, C., Pettersson, D. & Forsberg, E. (forthcoming) A Game of Thrones: Organising and Legitimising Knowledge through PISA Research. European Educational Research Journal.

Daniel Pettersson: イェヴレ大学准教授、Dr. Eva Forsbergとともに、現代における国際アセスメント指標の活用実態と歴史についての研究を進める。主な近著にLindblad, S., Pettersson, D. & Popkewitz, T.S. (forthcoming) Numbers, Education and the Making of Society: International Assessments and Its Expertise. Routledge: London & New York.

金 龍: 清州教育大学教授、教育改革や規制緩和改革について、批判的検討を行い、研究を進めている。主な近著に、Tracing the discourse of autonomy around the education reform of the 1990s in Korea: A critical discourse analysis (Journal of Educational Administration and Policy, v.1.n.1. 2016. pp.41-52)

澤野 由紀子: 聖心女子大学教授、主な研究課題は、ヨーロッパの生涯学習政策とその効果、能動的市民性を育む教育内容・方法の国際比較研究、北欧諸国の子ども行政システム、ロシア・CIS諸国の教育改革。主な著書に、『揺れる世界の学力マップ』(明石書店、2009年、共編著)、『教育改革の国際比較研究』(ミネルヴァ、2007年)等。

※本研究はJSPS科研費 JP16K13521, JP16H05960の助成を受けたものです。

2017年9月26日火曜日

教育動向:「禁書週間」始まる

アメリカの教育動向(久原みな子)

米国図書館協会(American Library Association, ALA)が毎年9月の最終週に開催する「禁書週間(Banned Books Week)」が9月25日より始まった。この1週間は、前年に「挑発的な本」として学校や図書館の本棚からの除去や利用規制の申し立てが届けられた本を通して、読む権利と情報アクセスの自由の価値を考える期間となっている。図書館協会によれば、2016年には323件の申し立てがあり、その多くが親や図書館利用者からのものであった。2016年の申し立てが多かった本トップ10には、絵本やグラフィック・ノベルなど、子ども・ヤング・アダルト向けの本もランクインしており、LGBTに関連したトピックを主題にしたものが目立つ。図書館協会は読む権利と自由を擁護する立場であり、実際にはこうした異議申し立ての多かった本が本棚から除去されることは少なく、今も入手できる状態であることを祝福している。図書館協会が発表した最も異議申し立ての多かった本トップ10は以下の動画や図書館協会のウェブサイトで確認できる。




2017年7月25日火曜日

EDU-JPN:Kake Gakuen Scandal: Maekawa’s Word against Prime Minister Abe’s

Education in Japan (Natalie Collor)

For more than a decade, MEXT has not granted approval for any higher education academic institution’s wish to create a veterinary program with the belief that more programs would create unnecessary competition in the field. Last November, however, Prime Minister Abe approved Kake Gakuen’s request for a veterinary program. Abe, who is publically known to be good friends with the institution’s chairman Kotaro Kake, granted this special permission only to Kake Gakuen and all other institutions were denied their expansion requests.

The documents, including transcripts from the approval meetings, as well as the influence of Prime Minister Abe’s opinion on this matter, hold great weight in this scandal, but MEXT first announced that it could not locate the documents. Soon after this, bureaucrat Kihei Maekawa stated publically that he knew for sure that the documents existed, suggesting that MEXT was hiding something in their inability to produce the documents.

An interesting twist to this scandal involved a Yomiuri Newspaper article outing Kihei Maekawa for going to a risqué bar. For a national newspaper to focus on the personal life of a politician is very rare, and the public may be wondering why such an article was written. Did Yomiuri, a newspaper in support of Prime Minister Abe’s Administration, want to scare off Maekawa and his claims concerning Abe’s statements in the official documents? The public knows so little about the hidden interactions involved in this matter, so the best they can do is speculate.

Upon a second search, MEXT found the documents that Maekawa spoke of. The words of Prime Minister Abe in these transcripts have since been scrutinized by the media and other politicians. Was he overly persuasive in encouraging his inferiors to approve this request for personal gain, or was he so passionate in his speech because he truly believed Kake Gakuen would benefit from the expansion?

While details from this scandal are still being released and the public may never know Abe’s true intentions or motives, there is one alarming implication from this scandal. If the suspicions about Abe’s personal interests in this matter, as well as Yomiuri’s intentional outing of Maekawa are true, Japan would become yet another country whose government leaks private information in order to protect its own interests. Although this is primarily speculation, many Japanese people—even politicians—are in disbelief that such questionable behavior could possibly occur in this country.

2017年7月8日土曜日

教育動向:州司法長官らがデヴォス教育長官を提訴




アメリカの教育動向(久原みな子)

コロンビア特別区と18州の司法長官は6日、連邦教育省とデヴォス教育長官を提訴した。オバマ政権下で決定していた、悪質あるいは違法な手法で営利目的大学に勧誘され、質の疑わしい教育や学位のために多額の学生ローンを負うことになった学生を救済するための規則(“the Borrower Defense Rule”)が7月1日付で有効になるはずであったが、これをデヴォス長官が突如延期したのは違法であると司法長官らは訴えている。悪質な勧誘と巨額の学生ローンの被害にあっている学生の多くは、2015年に倒産したコリンシアン・カレッジ(Corinthian Colleges, Inc.)のような営利目的の大学経営チェーンの学生である。オバマ政権が定めた規則は、こうした被害に合った学生が連邦政府ローンを返済できない場合、それを納税者ではなく大学に負わせることや、大学が学生に対し大学を相手取った訴訟を起こさないことを誓約させることを禁止するというものであったが、デヴォス長官はこの規則を改訂するために準備中であるとしている。