2017年5月12日金曜日

教育動向:デヴォス教育長官の卒業式スピーチにブーイング

アメリカの教育動向(久原みな子)

5月10日、歴史的にアフリカ系アメリカ人の教育のために創立されたいわゆる「黒人大学」(historically black colleges and universities, HBCUs)のひとつであるベスーン・クックマン大学(フロリダ州)の卒業式が行われ、来賓のデヴォス連邦教育長官がスピーチを行ったが、多くの学生がブーイングをしたり、文字どおりデヴォス長官に背を向けるなど、抗議の姿勢を見せた。

「黒人大学」は、人種差別により白人と同じ大学への入学が認められず高等教育を受ける機会が限られていたアフリカ系アメリカ人が、公民権運動以前からかれら自身で創設・運営してきた大学である(現在はアフリカ系アメリカ人以外の学生も受け入れている)。ところが、今年2月に学校選択制の推進を目指すデヴォス長官が、こうした歴史的経緯をふまえず、黒人大学は「学校選択制の先駆者である」と発言し、「黒人大学」関係者などから非難を浴びていた。一方、トランプ大統領は2月に「黒人大学」の学長らをホワイト・ハウスに招くなどして、トランプ政権の「黒人大学」支援をアピールしていた。しかし、先週末から今週にかけて「黒人大学」に対する財政支援が違憲になりうるという見解を示し非難が殺到したため、改めて「黒人大学」を変わらずに支援することを表明するなど、トンプ政権と「黒人大学」の緊張関係が続いていた。

ベスーン・クックマン大学でのスピーチに関しては、デヴォス長官を卒業式に招かないよう求める約6万人の署名が大学に届けられていた。また、フロリダ州の全米黒人地位向上協会/NAACP(公民権団体)は、デヴォスを招待したジャクソン学長の辞任を求めている。

2017年3月18日土曜日

教育動向:トランプ政権が予算案を発表、教育予算をカット



アメリカの教育動向(久原みな子)

トランプ政権は3月16日、「アメリカ・ファースト」と題した2018年度連邦予算案を発表。大幅な軍事費増加を提案するとともに、教育省予算は今年度のおよそ13.5%減(約90億ドル減)となった。教師教育、始業前および放課後の活動支援、低所得者向けの奨学金プログラムなどへの財政支援が削減あるいは廃止される一方で、学校選択制を拡充させるためのプログラムに約14億ドルが追加された。これにより、チャーター・スクールや私学進学に使用できる教育バウチャーへの支援が強化される見込みである。

また、同予算案は、様々な芸術活動とその普及・教育に対して全米最大の資金提供をしている全米芸術基金(the National Endowment for the Art, NEA)と、図書館、博物館などの各種文化施設や大学、公共テレビ・ラジオ放送局、人文科学系研究者などに幅広い財政支援をしている全米人文科学基金(the National Endowment for the Humanities, NEH)の撤廃も提案している。

2017年3月17日金曜日

教育動向:NEAが連邦最高裁判事に指名されたゴーサッチ氏に懸念表明



アメリカの教育動向(久原みな子)

米国最大の教師組合である全米教育組合(NEA)は、トランプ大統領が欠員の出ていた連邦最高裁判事に指名したニール・ゴーサッチ氏の上院司法委員会での指名承認公聴会を前に、もし彼が承認されれば障害を持つ生徒の権利とその教育が危機に陥ると結論づけたレポートを発表した。また、精神障害を持つ人々の権利の擁護と促進を目指しているバゼロン・センター(Bazelon Center for Mental Health Law)も、同様の趣旨のレポートを発表した。両レポートともに、これまでゴーサッチ氏が連邦第10巡回区控訴裁判所判事としてかかわってきた判決を詳細に分析し、彼がほとんどの判決で障害のある個人の教育法(The Individuals with Disabilities Education Act (IDEA)をはじめとする法律を障がいを持つ生徒にとって不利になる方向に解釈し、それらの法律によって守られるべき権利を逆に侵害してきたと主張している。

終身職である最高裁判事の現在の構成は、保守派とリベラル派が4人ずつとなっており、保守派の法律家として知られるゴーサッチが承認されれば、今後、様々な教育関係の裁判を含め保守派優勢の判決がなされていく可能性がある。なお、ゴーサッチ氏の指名承認公聴会は3月20日から始まる予定。