2016年1月12日火曜日

教育動向: 2016年教育動向予想

アメリカの教育動向(久原みな子)

公共ラジオ局NPRで長年教育ニュースを追ってきた記者クラウディオ・サンチェスが、昨年に続き今年も「2016年に注目すべき教育動向予想」を6つをまとめた。ちなみに昨年には、学力テスト、コモン・コアの見直し、オバマの教育政策の停滞、大学キャンパスでの学生の飲酒・ドラッグ・性的暴行問題への注目、教師の評価の問題、ファーガソンでの銃撃事件を受けた黒人生徒と学校警察の問題などを予測していた。では今年の予想を見てみよう。

1. 新しく成立した、すべての生徒が成功する法(ESSA)

落ちこぼれを作らないための初等中等教育法(NCLB法)に代わって昨年末成立した新教育法により、教育に関する権限を連邦政府から各州へと戻すことになっている(前回のブログ記事参照)が、実際にどのように教育行政を州が行っていくかはまだ決定していない。生徒が受けるテストの数は減ってもテスト結果が学校評価に使われることには変わりないだろう。

2. 全米共通学力基準コモン・コアから州独自の基準へ

コモン・コアに代わる州独自の基準を設定する州が増えるはずだが、多くは、名前を変更する程度で内容的にはそれほど変わらないものになると考えられる。

3.  チャータースクールの行方

今年でチャータースクール開始から25年になり、およそ6700校に300万人が学ぶまでになった。連邦政府も莫大な財政援助をしており、多くのアメリカ人も支持しているが、いまだ不正や汚職もあとをたたない。チャータースクールは、大統領選でも議論の的となる数少ない教育問題のひとつとなるだろう。

4. 不法移民の子どもたちの教育

米国に不法に移民した子どもたちの高等教育進学をめぐる問題は、移民問題の解決の遅れにより行き詰まっている。大統領選における不法移民をめぐる議論もこの問題を左右することになると考えられる。

5. 大学入試におけるアファーマティヴ・アクションの終焉

合衆国最高裁が大学入試選考で人種を考慮することを禁止し、アファーマティヴ・アクションが終わりになると考えられる。これに対して、少数派の学生による反対運動が予想される。大学側は、キャンパス内の多様性維持のためにどのような方法で様々な学生を集めていくか再考することが求められるだろう。

6. 大学学費・学生ローンの見直し

多くの大統領選候補者たちが、高等教育を無償あるいは借金の必要のないものにすることを求めており、高等教育機関は、授業料の設定に関して根本的な議論を進めていく必要があるだろう。

  • Claudio Sanchez. “Six Education Stories to Watch in 2015.” NPR News, 2015/1/3.
  • Claudio Sanchez. “6 Education Stories To Watch In 2016.” NPR News, 2016/1/1.

2015年12月29日火曜日

教育動向: No Child Left Behind Actに代わる教育法案が成立

アメリカの教育動向(久原みな子)

 連邦議会両院は12月10日、ブッシュ政権下の2002年に成立した、No Child Left Behind Act(落ちこぼれを作らないための初等中等教育法/どの子も置き去りにしない法/NCLB法)に代わる、Every Student Succeeds Act(すべての生徒が成功する法/ESSA)を賛成多数で可決し、オバマ大統領が新法に署名した。

 NCLB法は、1965年、ジョンソン大統領時に制定された初等中等教育法(ESEA)の改正法であるが、この初等中等教育法は、全ての子どもが教育を受けられるよう州に財政補助を行うこを決めた公民権法のひとつで、数年ごとに議会での見直しがされることになっている。NCLB法成立の2002年以降、全米共通学力基準であるコモン・コア(CCSS)やその到達度を測る統一テストが導入され、統一テストの結果が学校と教員の評価、連邦政府からの財政支援に結びつけられるようになるにつれ、NCLB法の画一的な方法の限界が露呈し、多くの反対運動を引き起こすまでになっていた。

 今回の改訂で、オバマ大統領は、「高い基準、アカウンタビリティ、学力格差縮小」というNCLB法の核となる目標は間違っていなかったことを確認したが、ESSAにより、統一テストの実施方法やカリキュラムなどにより柔軟性を持たせ、州と学区、教師たちに決定権を再び戻すことになった。

  • Gregory Korte. “The Every Student Succeeds Act vs. No Child Left Behind: What's changed?” USA Today, 2015/12/10. US Department of Education. “Every Student Succeeds Act (ESSA).”


2015年12月1日火曜日

教育動向: 米国で学ぶ留学生が10%増加、100万人近くに

アメリカの教育動向(久原みな子)

 米国教育省傘下の米国国際教育研究所(Institute of International Education)は、国際教育週間さなかの11月16日、国際教育に関する年次報告書 "Open Doors 2015" を発表した。それによれば、2014-2015年度、米国の高等教育機関で学ぶ留学生の数は前年度より10%増加し、過去35年間で最も多い974,926人であった。特に、インド、ブラジルからの留学生が増えていた。留学生の出身国別内訳は、中国が最も多く留学生全体の31%、続いてインドの14%となっており、韓国、サウジアラビア、カナダが続いている。日本からの留学生は、8位であった。専攻別では、ビジネス・経営学と工学が多数を占めている。

 留学生の多い上位大学は、ニューヨーク大学(13,178人)、南カリフォルニア大学(12,334人)、コロンビア大学(11,510人)となっており、アイビーリーグのみならず、全国の州立大学にも多くの学生が留学していることが明らかになった。学部生のおよそ80%、大学院生の約55%が、家族や個人の貯金に留学資金を頼っており、留学生全体で米国経済におよそ31億円の経済的貢献をしているとされる。米国から海外に留学する学生数も2013-2014年度に2008年の不況以降はじめて増加し、およそ30万人を超えた。

2015年11月4日水曜日

教育動向: ニューヨーク市、大学進学適正試験(SAT)を来年から無償化

アメリカの教育動向(久原みな子)

 10月から11月にかけて、全米のカレッジ・大学は入学願書提出時期となっている。アメリカでの大学入学者の選考は、日本のような大学を試験会場とした入学試験の結果によってではなく、事前に受験した大学進学適正試験(SAT)などの大学進学適性試験の結果を含む、様々な書類やエッセイ、推薦状などをもとに総合的に判断される。

 来年度大学進学予定のオバマ大統領の長女マリアが、アイヴィー・リーグや全米トップの州立大学の見学を終え、どこに進学することになるのかが注目されている一方で、多くの州や自治体では、この時期、カレッジ・アプリケーション・ウィーク(College Application Week大学願書提出週間)として、高校生の入学願書提出と高等教育進学をサポートしている。特に、家族内ではじめて大学に進学しようとしている「第一世代」の生徒に、無料の進学カウセリングや、出願料免除措置、入試プロセスのサポートを提供することが主眼となっている。

 こうした中、ニューヨーク市では、大学入試に必要なSAT試験を、来年度から市内の高校2年生に無料で、通常試験が行われる土曜日ではなく、平日に提供すると発表した。SATやACTを無償化し学校内で行う同様の措置は、大学進学を奨励・支援するとともに、必修の学力試験と置き換えることで高校生の受ける試験の総数を減らす目的で、すでにノース・カロライナ州、ケンタッキー州、ウィスコンシン州、コネチカット州などで導入されてきた。ニューヨークでは、SAT受験者は2015年卒業予定の生徒の約半分であり、54ドル50セント(約6千円)の試験料を市が肩代わりすることで、受験者を増やし、大学進学の手助けをするのが狙いである。これによりニューヨーク市は年間約180万ドルを負担することになる。


2015年10月21日水曜日

宝槻泰伸氏講演会 「探求型学習で子どもが能動的に学ぶ方法論」を開催しました

  1. 実施報告

  2. 当日の様子

  3. 感想

開催のご案内はこちら


1. 実施報告

 平成27年9月26日土曜日、信州大学教育学部キャンパスにおいて、「ヤバい家庭教育―宝槻泰伸さんから学ぶ「探求型学習」で子供が能動的に学習に取り組む方法論」を開催いたしました。この講演会は「社会教育演習」の授業の一環で学生が企画・運営のすべてを行いました。

 チラシを配布した教育学部周辺の小学校の保護者の方や、折り込み広告を配布したエリアにお住まいの方、高校生や大学生といった学生にも参加していただき、合計で40人ほどの方にお越しいただきました。講演会の講師の宝槻泰伸さんは、『塾にも学校にも通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』(徳間書店、2014)の著者でいらっしゃいます。今回は、宝槻さんご自身の経験を踏まえた家庭教育のお話や、宝槻さんが現在取り組んでおられる「探求型学習」についてのお話など、2時間講演をしていただきました。参加者同士が意見を交わしあう場も設けられ、非常に活発な講演会となりました。 講演会では、宝槻さんが普段開講しておられる「探究学舎」の授業を体験するという場面もあり、参加者の皆さんは数字の歴史について興味深く学んでおられたのとともに、こういう風に勉強すれば子どもも探求心を持って学習できるかもしれないというヒントを得ることができた方も多かったのではないでしょうか。

 「子どもの心に火をつける」「子どもの探求心に種をまく」「子供とともに無計画に驚きと感動を」など、宝槻さんからのメッセージが、参加していただいた皆さんに響いたように思います。また、講演会の満足度も94%(任意記入のアンケートで満足、非常に満足に回答した割合)と非常に高く、参加していただいた皆さんに有意義な時間を過ごしていただけたと思います。

 すべて学生での運営となり、至らない点があったかと思いますが、ご都合をつけてご参加いただいた皆様に感謝申し上げます。(学生一同)


2. 当日の様子


 会場準備の様子

 白熱した講演会
 
  講演後には講師の前に長蛇の列


3. 感想

  • 親の立場で、子どもに何かやらせるという観点ではなく、子どもの心に火をつける種まき をしてあげること、勉強になりました。
  • 教師としてどうしていくべきかという考えがより固まった ので良かった。
  • 教育は人格形成のために重要である。そのための勉強のやる気を引き出す方法は大変参考 になった。
  • 親とは違った視点で教えていただけて勉強になりました。楽しく聞かせていただけまし た。
  • まさに求めていたテーマでした。求めていた答えは半分手に入れた感がありました。
  • 子育てには、完全なマニュアルはないと思うからこそ、今日の講演は親として基本スタン スが得られ、うれしかったです。ありがとうございました。企画、準備をしていただき学 生の皆様に感謝いたします。
  • 子どもの教育方針に行き詰っていたところで、「種をまくだけでいい」の言葉に勇気づけ られました。ぜひ、長野で教室を開いていただきたいです。
  • 親として、こうでありたいと思うことはあっても、周りの雰囲気や言葉に流されてしまう 自分がおりました。本日講演をお聞きして、自分たちの親としての役目、公でありたいと 思っていたことは間違っていないと確信いたしました。自信をもって子どもと一緒に楽 しんで学んでいきたいと思います。ありがとうございました!
  • とてもたのしかったです。ただ聞くだけではなくて、参加している感じがとてもよかった です
  • 探求心を持たせるために、親として、もっと子どもと関わる必要性を学んだ。
  • とてもよい講演会だったと思います。学生さんだけの運営で大変かと思いますが、次回も あればぜひ参加したいです。
  • たくさんのヒントを頂けて満足しています。「驚きと感動を一緒に、無計画に」という点 が納得しました。ありがとうございました。
  • 子どもの心に火をつける。すごくハッとした言葉でした。
  • とても楽しかった。探求の種を心に植えさせてもらいました。
  • 親としての役割を考えさせられた。「人生の挑戦」など大切な言葉をありがとうございました。種をまくところは、社会と理科、ということ、「驚きや感動」を持った子がどうな るかなど、大切なことを教えていただき、ありがとうございました。
  • 探求心の種をまける親になるためにはどうしたらよいかと言うことをすごく考えさせら れました。自分の探求心の乏しさを痛感させられる講演会でした。
  • 「探求教育」という言葉をはじめて聞きました。子どもの畑に種をまくことが果たして自 分の子どもたちに出来ているのか自問自答しています。「驚きと感動」を一緒に共有して いた経験を振り返ったときに子どものスポーツを思い浮かべました。
  • 面白かったです。子育てはほぼ終わっている年齢ですが、よかったです!
  • あれをやれ、これをやれと言わず、一緒に楽しんでいこうと思います。ありがとうござい ました。

 運営に当たった学生スタッフと記念撮影

 
平成27年度「社会教育演習」受講生 
 
木寺 祐貴、高橋 明日美、西村 香奈子
剣持 佳季、柳瀬さやか、箕輪 美里
 




2015年10月20日火曜日

教育動向: ビル・ゲイツがゲイツ財団の教育分野での活動についてスピーチ

アメリカの教育動向(久原みな子)

 10月7日、ワシントン州ベルビューで行われたビル&メリッサ・ゲイツ財団主宰の教育フォーラムで、ビル・ゲイツが財団のこれまで15年間にわたる教育分野での仕事についてスピーチした。

 ゲイツ財団は、2000年代初頭、ハイスクールの規模縮小化を皮切りに教育問題に着手した。のちにオバマ政権誕生と足並みを揃えるかのように、教師の質こそが生徒の学力向上に影響を与える要素であるとして、教師評価システムの確立とコモン・コア・カリキュラムと学力テストの開発・導入に力を入れてきた。1999年からこれまでに、ゲイツ財団はおよそ40億ドルを教育へ費やしてきたと言われる。

 今回のスピーチでは、財団がこれからも教師の質の向上とコモン・コアを使った学力テストに注力していくことを確認した。しかし、これらに関する最近の議論がまるで、「学力テストの結果のみを使った教員評価か、あるいは全く使われないか」という両極端の選択であるかのようになっていることは問題視しており、学力テストの結果は、授業観察や生徒からのフィードバック、同僚教師や校長からのフィードバック・指導などといった他の要素とともに、教師の評価と昇進を決める様々な要素のひとつとして使われるべきだと主張した。