2019年10月9日水曜日

ワークショップ「『教育の輸出』政策の実態と課題」のご案内

埼玉大学で開催される日本教育行政学会第54回大会において、以下のワークショップを開催します。ご関心のある方はぜひご参加ください。

特別企画(国際交流委員会ランチョンWS)「教育の輸出」政策の実態と課題

日時: 2019年10月19日(土) 12:00~13:00

場所: 埼玉大学 教育学部 A棟 A324

趣旨説明: 貞広斎子(千葉大学) 今期の委員会活動との関係性について
報告: 林寛平(信州大学・ウプサラ大学)「教育の輸出」をめぐる教育行政学的課題  
報告: 植田みどり(国立教育政策研究所)イギリスにおける実態―教員研修の事例―

趣旨: 
 大規模国際アセスメント(PISA等)が実施されるようになり、教育政策が国境を越えて流通している。ニュージーランド、フィンランド、日本などは「教育の輸出」国家戦略を策定し、義務教育段階の教育政策(実践を含む)や助言を海外アクターに提供し、収益を上げている。拡大するグローバル市場の中で、世界最大の教育企業でイギリスを拠点にするPearson社やJames Tooley教授(ニューカッスル大学)らが出資しガーナにOmega Schools社が創設された。Omega Schools社はガーナ国内で低コスト私立学校チェーンを展開するだけでなく、リベリアにも進出し、自らが「輸出」アクターとなっている。このような事象は極めて流動的で、商業活動であるがゆえに全体像の把握が難しい。その上、個別事例の課題はもとより、構造的・国際的な問題が懸念され、教育行政学のアプローチからも検討が求められている。

 教育サービスの貿易は、「サービスの貿易に関する一般協定」(GATS)において分類されて以降、初等教育にも範囲を広げてきた。任意で参加することが多い高等教育とは異なり、多くの国で義務となっている初等教育への海外アクターの参入には倫理的な課題が懸念される。今後日本も、輸出国になると同時に、市場としても見られることになり、これにより生じる公教育の変容についても学術的な検討が必要である。 そこで本企画では、「教育の輸出」政策の事例を持ち寄り、教育行政学に向けられた課題を検討する。まず、貞広より、今期の委員会活動と本企画の関連性について説明した後、国際交流委員会から林・植田の2名が報告する。

 今期の国際交流委員会では、2017年の大会時に国際シンポジウム「国際アセスメント時代における教育行政」を開催した。2019年3月にはJ. ジェニングズ著『アメリカ教育改革のポリティクス―公正を求めた50年の闘い―』書評会を開き、5月には韓国での国際シンポジウム「政策変容期における政策の安定性・合理性確保のメカニズムに関する国際比較」に参加している。また、8月には世界教育学会(WERA)でシンポジウム「Externalization and Internalization: Referencing and adaptation of external policies in the Japanese education system」を開催した他、講演会「グローバルシティにおける教育改革とスクールリーダーシップの動向と展望」を行った。こうした機会を通じて、グローバル化と教育政策、教育と政治との関係性、Externalization and Internalizationについて議論を深めてきた。本企画はこれらの議論をベースにしている。

 林は「教育の輸出」関する先行文献を検討し、現象の定義と研究動向を整理した上で、教育行政学のアプローチから研究上の課題を報告する。特に、シンガポールやフィンランドのように、植民地を持った経験のない新興「起業家的国家」(entrepreneurial state)の性格を持つの事例と、英米の伝統的な対外政策を比較し、開発支援を通じた教育政策への関与の在り方を検討する。このような世界的な動向を踏まえて、文部科学省等が進める「日本型教育の海外展開推進事業」(EDU-Portニッポン)の課題を指摘する。

 植田は、イギリス(イングランド)での動向について紹介する。例えば、ロンドン大学教育学部(IoE)では、イギリスで制度化されている管理職研修プログラムを中東やアジアの国々において各国の事情に応じてカスタマイズして提供している。またCambridge Educationは英語教育のノウハウを活用して独自の英語教員のスタンダードを開発してアジアの国々において研修プログラムの提供と資格認証を行っている。このようにイギリス国内で開発されたプログラムを積極的に海外に輸出している。このような動向を紹介しながら、これらの組織が、どのように各国の事情に合わせたシステムやプログラムの開発を行っているのかを報告する。

 これに加えて、「教育の輸出」のアクターであるOmega Schools社より広報担当社員のJohn Kokro Frimpong氏とリベリア事業責任者のMichael Bonney氏をお招きし、具体的な事例を補足的に説明してもらう。ゲスト2名には、イギリス・Pearson社との資本関係やリベリアでのビジネスの収益がどのように扱われているのかについてもお話しいただく。また、Omega Schoolsの設立者であるKen Donkoh氏が最近経営から退いたことについて、その背景事情とその後の経営体制について話を伺う。 

 本企画では、限られた時間ながら、学術交流のために有効に活用するために、昼食を持ち寄ってワークショップ形式で行い、国際交流委員会でのこれまでの議論を学会員と共有する機会としたい。そのため、参加者に発言を求めることがある。なお、ワークショップの一部は英語で行われる。

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