2017年10月17日火曜日

研究紹介: 学校選択制による「平等を目指す競争」の分析

林寛平「スウェーデンにおける学校選択制による学校間成績差抑制モデルの分析-ナッカ市におけるSALSAを活用した予算配分を事例に-」, 日本教育行政学会(編)『教育行政学研究と教育行政改革の軌跡と展望』, 2016, pp.174-179.


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キーワード:学校選択制、教育費バウチャー制、脱集権化改革、平等を目指す競争

 かつて高度に集権化された福祉国家のモデルとみられていたスウェーデンは、1980年代以降の改革を経て脱集権化した国に様変わりした。教育における脱集権化は、学校の自律性を高めることで現場の能力が増し、学習の質が向上するという期待によって推進され(Zajda 2006)、とりわけ規則、財政、権限の側面に大きな変化が見られた(Pierre 2010)。一方、改革の動機には行政運営の効率化もあり、公的部門の民営化と支出削減が並行して進められた (Montin 1992)。この過程において、義務教育費が1990年に国からコミューン(基礎自治体)に移譲され、1992年には学校選択制が導入された。

 これらの改革は教育の「市場化」として分析されることが多い (Björklund et al. 2005)。「市場化」は競争と淘汰を前提とするため、格差拡大と質の低下が危惧されている(Bunar & Sernhede 2013)。学校教育庁の分析でも学校間成績差の拡大が明らかになっている(Skolverket 2012)。一方、国際調査では相対的に平等で公正な教育制度を有すると評価されている(OECD 2015)。また、Kallstenius(2010)は学校選択制により移民生徒がいわゆる「中流スウェーデン人」の集住地区に越境通学することで、学校が多文化になり、統合が促進される面もあると指摘している。現状では、学校選択制が成績差や分離に与える影響についてはコンセンサスが得られていない。

 本稿では、「市場化」の中で競争原理を用いながら平等を促進するナッカ市(Nacka kommun)の事例を検討する。ナッカ市の教育費配分方式は学校選択制を用いて学校間の成績差を抑制するモデルである。市は予算配分を生徒の社会的背景に応じて重みづけすることで、学校の生徒獲得行動を統制している。この安定化効果を通じて「平等を目指す競争」が生じることを期待している。本研究は、2006年から2015年にかけて学校教育庁、学校監査庁、地方自治体組合、ナッカ市、ナッカ市立基礎学校で行った聞き取り調査とナッカ市議会の議事資料に基づいている。

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